東京農工大学は2024年6月7日、人工知能(AI)の手法の一つである機械学習を合成プロセスに活用することで、世界最高の磁力を持つ鉄系高温超伝導体の永久磁石を開発することに成功したと発表した。テスラクラスの強力磁場を安定保持することにも成功し、多様な超伝導機器、システムへの活用が期待できる。同大学は、研究者の知見とAIを融合した設計手法の構築は、超伝導材料合成を探索する時代の幕開けとなる、としている。
同大学を中心とする研究グループは、作りやすく使いやすい超伝導磁石を開発するため、工業的なセラミックス材料の合成プロセスで生産でき、スケールアップも容易な多結晶型の鉄系高温超伝導体に着目。超伝導電流が流れやすいミクロ構造を得られる合成プロセスを効率的に探索するため、研究者の経験や勘に基づいた方針をAIに予測させ、それを複数の研究者で共有することで、最適な合成プロセスの条件を研究者とAIがそれぞれ見出していく手法を構築した。
その結果、研究者グループとAIが、それぞれ円盤バルク(塊)状の磁石を合成。それぞれの磁石を小型冷凍機で転移温度(38ケルビン)以下に冷やし、外部から磁化すると永久磁石の性質を示した。磁力は市販のネオジム永久磁石の数倍に相当する2テスラを上回った。これは、米国立強磁場研究所や中国科学院のグループなどによって報告された、鉄系高温超伝導磁石の世界記録を2倍以上上回る。さらに3日間にわたって磁力の変化を計測したところ、テスラクラスの強大な磁力にもかかわらず、極めて小さい減衰で保持できることも分かった。
また、それぞれの磁石を電子顕微鏡で観察したところ、研究者とAIがプロセス設計した試料のミクロ構造に、注目すべき違いがあることも確認した。研究者がプロセス設計した試料では、数十nmの間隔を比較的均一に保ちながら、ぎっしりと詰まった粒界ネットワークが見られたが、AIがプロセス設計した試料では、間隔が数十~数百nmの広い範囲を持つ二峰性の粒界ネットワークが見られた。これは、これまでの高温超伝導に見られなかった特徴で、どのように高い電流特性に寄与しているかを解明できれば、鉄系高温超伝導磁石の磁力向上のブレイクスルーにつながると期待される。
研究グループは、開発した超伝導磁石について、医療用のMRIや、製薬、たんぱく質解析に用いられる磁気共鳴分析装置(NMR)、宇宙誕生の起源に迫る高エネルギー加速器などへの活用が期待できるとしている。今回の研究成果は、6月7日、Springer Nature科学誌「NPG Asia Materials」オンライン版で公開された。