太陽光を使って排水を肥料に変える「人工葉」を開発

Chen Han/UNSW

ニューサウスウェールズ大学(UNSW)は2024年8月5日、同大学の研究チームが太陽光を利用して廃液中の硝酸を肥料用の硝酸アンモニウムに変換する「人工葉」を開発したと発表した。従来のアンモニアの工業的製法とは異なり、製造過程で温室効果ガスを発生しないため、環境に優しい肥料製造の道を開く可能性がある。

アンモニアは、世界の農業と食糧生産を支える肥料の生産に不可欠だ。しかし、従来の製造方法は水素を必要とし、高温、高圧の条件下で合成されるため、化石燃料を必要とする。

研究チームは温室効果ガスを排出することなくアンモニアを生産する技術の開発に取り組み、人工の葉のように働くソーラーパネルのみを使って、硝酸塩を含む排水からアンモニウムイオンを生成する技術を開発した。この技術は光合成に着想を得ている。従来のシリコンソーラーパネルの表面に導入された銅と水酸化コバルトからなる薄いナノ構造層が、光電気触媒(PEC)として機能する。ソーラーパネルが人工葉として働き、水と二酸化炭素から酸素と糖を生成する反応を助ける代わりに、硝酸塩を含む排水から硝酸アンモニウムを生成するために必要な化学反応を触媒する。

実証実験では、UNSWの建物の屋上に設置された40cm2の人工葉から、1.49m2の農地に必要なアンモニウムイオンを生成することができた。従来のアンモニア製造には400~500℃の高温が必要だったが、この技術は常温で機能する。肥料中のアンモニア濃度は低いため、研究チームはこの技術が現実社会で使用するアンモニア量を十分に生成できると考えている。また、アンモニア生成に利用した後の排水は、農業用水として灌漑(かんがい)に利用できるとも述べている。

さらに、研究チームはこの技術はアンモニウムを現場で生産できるため、農業地域で比較的小規模に実施できると考えている。生産プロセスが分散化するため、輸送にかかる二酸化炭素排出量の削減も可能だ。

現在、研究チームは新技術を商業化するためのスケールアップを希望しており、産業界との協力を熱望している。

研究成果は『Journal of Energy and Environmental Science』誌2024年15巻で公開されている。

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