- 2024-9-17
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- Physical Review Letters, レナード=ジョーンズ粒子系, 京都大学, 分子動力学計算, 数値シミュレーション, 浮遊現象, 熱流, 熱流体力学, 研究
京都大学は2024年9月13日、気体と液体が共存する状態で重力に拮抗する弱い熱流をかけると、沈んでいた液体が気体の上に浮き上がり浮遊し続けることを、分子動力学計算による数値シミュレーションで発見したと発表した。この浮遊現象は、熱流体力学の理論で説明が可能で、同大学の研究グループは液体が浮くための条件も明らかにした。
通常、ポットで水を沸かすと、重力によって水蒸気が上に上がり、水が下側にくる。しかし、水は温度が低い方が安定するため、無重力下ではポットの底の方が熱ければ、熱流で上に押し上げられ、水は上側に位置する。こうしたことから、研究グループは水を下に沈ませようとする重力の影響と、水を浮き上がらせる熱流の影響が拮抗したときに、水と水蒸気の位置はどうなるのか、希ガスの熱力学的性質を再現するモデルとして知られる、レナード=ジョーンズ粒子系で分子動力学計算を行い、解明を試みた。
まず、密閉容器の中にこの粒子系を入れて飽和状態にした。次に、重力をかけて液体が下に沈んだ状態にしたうえで、容器の底の温度を少し高く、逆に容器の上蓋の温度を少し低くして、重力と逆向きに熱流を流した。これによって、液体と気体の位置関係が重力と熱流によってどのように変化するかを系統的に調べた。
その結果、重力と熱流の影響が拮抗したと見られる状態では液体が重力にあらがって浮き上がり、浮きあがった液体は容器の真ん中で浮遊したまま静止した。さらに、容器の上下端の温度や重力加速度の大きさを変化させると液体の浮上する高さが変わり、液体が静止する高さは容器にかかる平均的な温度勾配と重力加速度の比で決まることを確認した。この際、流れる熱流は十分に小さく、上昇気流のような気体の大規模運動も起きていなかったことから、熱の流れだけで重いものを上に持ち上げていることがわかる。
続いて、こうした浮遊現象が通常の熱流体力学の理論で説明できるのかを検討した。数値シミュレーションでは微小な系の実験しかできないため、日常サイズのマクロ熱流体に用いる標準理論を解析して、液体の浮遊現象が起こる条件を調べた。
その結果、液体が浮き上がる高さは、飽和状態の性質と液体や気体の質量密度と熱伝導率で決まることを突き止めた。理論的に予想される浮遊の高さは、数値シミュレーションの結果と整合していた。また、液体の上にある冷たい気体は、液体になるべき温度でも気体のままになっていることもわかった。
こうした結果を踏まえ、実際に地球上で飽和状態にある希ガスの液体が気体の上に浮き上がるために必要な温度差を見積もってみると、非常にわずかな温度差と予想された。研究グループは容器壁が分子を吸着しないように設計すれば、液体が浮き上がる現象を実際に観測することも可能だとしている。
今回の研究について研究グループは、熱流が力を生み出すメカニズムを理解する手掛かりになるとし、排熱を使って物質を運ぶなど、新しい物質輸送技術の開発やエネルギー効率の向上につながる可能性があると期待を寄せている。
今回の研究成果は2024年9月10日に国際学術誌『Physical Review Letters』に掲載された。
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