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CES定点観測のすすめ−「CESらしさ」を感じた、自動運転レーシングカーが競い合うIndy Autonomous ChallengeとAptera Motorsの再興

京都産業大学 情報理工学部
准教授 安田 豊

CESは次代の技術トレンドを集め続ける世界最大規模の技術見本市です(写真1)。そこでは数多くの企業が自分たちの先進性を示すメッセージを世界に向けて送り出します。例えばトヨタはそのプレスカンファレンスに豊田章男会長が立ち、未来のトヨタにつながる新技術の研究拠点として建設中であるWOVEN CITYの第一期工事完了を報告しました(写真2)。

写真1:West Hallの展示会場(展示場は複数ある)入り口から流れ込む大勢の人

写真2:トヨタのプレスカンファレンスでの豊田章男会長

CESでは大企業からスタートアップまでがさまざまなブースを構え、プレスミーティングや各種イベントが開催されます。ここではその中から、筆者の興味を引いたものを二つ紹介します。

Indy Autonomous Challenge

ここ最近の筆者のCESでの楽しみの一つがこのIAC – Indy Autonomous Challenge です。産官学の連携プロジェクトで、自律走行ソフトウェア開発と本物のレースカーで行う研究プロジェクトです(写真3)。例年、CESでは実車をサーキットに持ち込んでタイムアタックを行っています。

写真3:West HallでのIACブース

車両はAV-24という、レース用に組んだホンダのガソリンエンジンK20C (*1)をDallaraのシャシーに積んだものです。2000ccターボチャージャー付きで488hpという数字と、まあ外見からして本物のレースカーですね(写真4)。

写真4:Las Vegas SpeedwayでのPoliMOVE-MSU (ミラノ工科大・ミシガン州立大のチーム:左)とKAIST(韓国科学技術院:右)の車両

*1 参考:“Honda、新開発レース用エンジンを鈴鹿サーキットでテスト”, ホンダ・レーシング, 2024/11, https://honda.racing/ja/features/hondas-new-racing-engine-tested-successfully-at-suzuka-circuit
(IACがHRCから供給を受けているかどうかは未確認)

これに各種センサーとコンピューターや通信システムなどを付けた状態で、主催であるIACから各チームに支給されます。メンテナンスもIACが行います。つまりイコールコンディションの車両に対して追加するソフトウェアを各チームが作って競う形になります。

IACは2021年から実車でのレースを開催しており、CESでは2022年から開催されていました。しかし当時はCOVID-19のために渡米できず、筆者はCES 2023が初観戦となりましたが、200Km/hをはるかに超える速度での追い抜き時の爆音はなかなか迫力がありました。CES 2023では2台同時走行でのタイムアタックだけでしたが、CES 2025では4台同時走行があり、オーバーテイクを何度か見ることができました。(写真5, 6)

写真5:疾走するPoliMOVE-MSUの車両

写真6:複数台混走状態での追い抜きを見せるCavalier Autonomous Racing (バージニア大:奥)とUnimore Racing(モデナ・レッジョ・エミリア大:手前)

ところで、この4台混走は「エキシビジョン」という位置付けとのことで、車両の最大パフォーマンスでは走らせていません。それでも追い越しを掛ける時はPush-To-Pass(*2)による排気音の増大(ガソリンエンジンだ!)が感じられ、レースの雰囲気を盛り上げていました。

*2 Indyレースなどで導入されている、一時的に出力を上げられる機構。上げられる能力、使用回数などが制限されている。今回は30秒間だけ25mph上げられるように設定されていた。

レース終了後は表彰式が行われました(写真7)。IACのPresident and CEOであるPaul Mitchell氏(写真右端)がマイクを持ち、出走チームにそれぞれコメントしながら一つずつトロフィーを渡していました。Michell 氏はイベントでは積極的に顔を見せており、取材にも丁寧に答えてくれて、このプロジェクトをよくリードしていることが伝わってきます。いつかここに日本のチームが入ると良いのですが!

写真7:表彰式の様子

最後に、ブースで取材していた時に親切にもカバー(運転席に当たる部分)を開けてもらえたのでその内部を紹介しましょう(写真8, 9)。見ての通りセンサー類はかなり多く、トータルではカメラが6つ、LiDARが4つ、Radarが2つ、GPSアンテナが4つ付けられています。

写真8のウイング(写真左上の部分)に2つのテレメトリ用の無線アンテナとGPSアンテナが見えています。その前にはLuminarの横長LiDARが二つ、斜め後ろを照射するように配置されています。

写真8:カバーを外した状態を斜め後ろから撮影

写真9は同じ運転席部分を、今度は斜め前から撮影したものです。正面を向いているもう一つのLiDARと、その周囲の4つのカメラ(赤茶色の胴)の配置がよくわかります。座席部分が空洞になっているので、まだまだGPUなど追加できそうですね。

写真9:同じ場所を反対側から撮影

Aptera Motors

Indyに加えて、もう一つ楽しみにしていたのがAptera Motors です。特徴的なデザインの二人乗り三輪のバッテリーEV車(写真10, 11)で、効率を追求することで日常的な利用はソーラー発電でまかなうことを狙っています。

写真10:Aptera Motorsの屋外展示

写真11:側面から見たところ

CES会場ではCentral Hall前のPlazaと呼ばれる場所に屋外展示されていました。シャシーとボディを分離して、構造が良く分かるように工夫された展示もあり、楽しめました(写真12, 13)。

写真12:シャシーとボディを分けた状態の展示

写真13:後輪のスイングアーム部分

Aptera Motorsは2006年に起業し、2008年ごろにはCESで展示された車体とほぼ同じ形のモデルを発表しています。しかし2009年ごろから資金調達が難しくなり、2011年に廃業となりました(*3)。

*3 https://en.wikipedia.org/wiki/Aptera_Motors

筆者は2008年ごろからApteraの流麗なデザインとその先進的な取り組みに注目しており、2010年にSan Diego近くのAptera 本社を訪問しました(写真14)。しかし、もう会社は休業状態でオフィスには誰もおらず、作業スペースに残された作りかけの車体を外から眺めるだけでした。

そのApteraが2019年に突如、オリジナルの創業者たちによって再起業されました。資金をクラウドファンディングで調達したのが何とも今どきです(*4)。CESブースでは創業者のChris Anthony氏にも会え、2010年の訪問のことを話しました。彼に再開してくれたことの感謝とこれからのApteraへの期待を伝えることができて、筆者はちょっと幸せな気持ちになりました。

写真14:2010年のAptera社入り口 (3151 Scott St., Vista, California)

*4 https://wefunder.com/aptera/reports/2019

おわりに

IACのMitchell氏もそうですが、やはりこうした技術開発はリードする人が重要です。CESはそうしたキーパーソンと直接話せる機会を提供してくれることが多く、その意味でも行く価値の高い、良い技術見本市ですね。


プロフィール
京都産業大学 情報理工学部 准教授 安田 豊

京都市北区生まれ。中学校ごろからの電子工作趣味が高じてそのまま情報系学部の教員となる。専門はネットワーク技術だが、アーキテクチャ、システムデザイン全般に関心あり。2000年頃から趣味的に国内外の先端的なスタートアップに取材し、一般誌に寄稿している。


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