- 2024-12-23
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- Amazon, Eutelsat OneWeb, GEO(Geostationary Orbit:静止軌道)衛星, HAPS(High Altitude Platform Station), HAPS(成層圏通信プラットフォーム), LEO(Low Earth Orbit:低軌道)衛星, MEO(Middle Earth Orbit:中軌道)衛星, NTN事業, Project Kuiper(カイパー), Starlink Business, グローバルローミング, スペースX, ソフトバンク株式会社, デジタルデバイド, マルチオービット+モバイルネットワーク, モバイルダイレクト通信, ユビキタス (Ubiquitous), ユビキタスネットワーク構想, ユビキタス社会, 人工衛星, 成層圏通信プラットフォーム, 無人航空機, 衛星コンステレーション, 非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)
2000年頃から、インターネットをはじめとするネットワークに接続できることで人々の生活が豊かになる、「ユビキタス社会」という言葉が聞かれるようになりました。このユビキタス (Ubiquitous)とは、コンピューターやネットワークの遍在(いつでもどこでも存在すること)を意味する言葉です。最近ではスマートフォンが圏外になることもなくなってきたように感じますが、それでも人里離れた山間部などではデジタルデバイドが生じていますし、大規模地震などの災害発生時には、情報ネットワークの迅速な復旧が大きな課題となっています。
地上の通信インフラでカバーできない状況を、低軌道や静止軌道に打ち上げた人工衛星、成層圏を飛行する無人航空機などを利用することで通信を可能にする非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)は、こうしたデジタルデバイドの解消や災害時の通信手段の確保にも役立ちます。
今回の連載は前後編2回の構成とし、どんな場所でも通信圏外にならない「ユビキタスネットワーク構想」をベースに、NTN事業に取り組むソフトバンク株式会社に、人工衛星や無人航空機などを利用した最先端の通信インフラ構築技術や、今後の展望などをご紹介いただきます。
第1回は、「ユビキタスネットワークを支えるNTN技術とは」と題して、NTN技術の概要を中心にソフトバンク株式会社 プロダクト技術本部 ユビキタスネットワーク企画統括部 NTN戦略部 戦略企画課 梅田 佳穂氏にお話を伺いました。(執筆:後藤 銀河、撮影:メイテック広報部)
<登壇者プロフィール>
ソフトバンク株式会社
プロダクト技術本部 ユビキタスネットワーク企画統括部 NTN戦略部
戦略企画課 梅田佳穂氏
2013年にソフトバンク株式会社へ入社し法人営業を担当。2019年に社内公募に立候補して、先端技術開発本部HAPSフライト企画推進室に異動し、HAPSのフライトテストなどを企画。2021年に現在の部署の前身となるグローバル通信事業統括部 営業企画推進部の所属となる。2023年より現在の部署にて、NTN全般のソリューションのプロモーションを担当。
<会社概要>
ソフトバンク株式会社
設立:1986年(昭和61年)12月9日
代表氏名:代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 宮川 潤一
本社所在地:東京都港区海岸一丁目7番1号
事業内容:移動通信サービスの提供、携帯端末の販売、固定通信サービスの提供、インターネット接続サービスの提供
HP:https://www.softbank.jp/corp/
――梅田さんのこれまでの業務経験を教えてください。
[梅田氏]2013年に新卒で入社し、法人事業統括部で7年間ほど法人営業を担当しました。その後、社内のジョブポスティングという人事制度を活用して、HAPS事業にチャレンジすることにしました。HAPS(High Altitude Platform Station)とは、成層圏を飛行する無人機から地上に4G/5Gなどの通信を届ける、成層圏通信プラットフォームのことです。
HAPSのフライトテストを企画する部署に1年半程在籍し、その後、組織の改編を経て今のユビキタスネットワーク企画統括部の前身である、グローバル通信事業統括部の所属となりました。現在はHAPSだけではなく、衛星通信も含めた非地上系ネットワーク(NTN)全般のソリューションのプロモーション活動に携わっています。
――ソフトバンクのNTN事業の目指す姿を教えていただけますか?
[梅田氏]弊社はいつでも、どこでも、誰もが安定した通信ネットワークに接続できる社会を実現する、「ユビキタスネットワーク」の構築を目指しています。
あらゆるものがネットワークにつながり、車やドローンなどのモビリティの自動運転、自律飛行が実現されつつある一方で、地上のネットワークにはまだまだ通信圏外エリアが存在しています。日本のセルラーネットワークの環境は、人口カバー率で見れば99%以上ですが、国土面積で見たカバー率は60%程度。つまり、日本の国土の約40%は通信圏外なのです。グローバルで見れば、北米南米、ブラジル、アフリカなどの地域では、電波が全く届いていないエリアは広く存在しています。
安心安全な自動運転や自律飛行の実現のためには、いつでも、どこでも通信がつながる必要があり、それを実現するのが「ユビキタスネットワーク構想」なのです。ユビキタスネットワークは、地上のセルラーネットワークとHAPSや衛星通信などの非地上系ネットワーク(NTN)を統合して、一つのサービスとして提供することを目的としています。それにより、人やモビリティがセルラーネットワークの圏外に出ても、自動的にNTN側の回線に接続され、通信が可能になります。
――ユビキタスネットワーク構想を実現するための具体的な技術や取り組みについて教えていただけますか?
[梅田氏]実現するための技術として、「モバイルダイレクト通信」と「マルチオービット+モバイルネットワーク」があります。
モバイルダイレクト通信は、スマートフォンのような小型端末と人工衛星が、安定して直接通信できるようにする技術です。弊社がターゲットにしているモビリティ領域でも、端末の小型化は重要なポイントになっています。ただし、端末を小型化することで通信のスループットが最大数メガ程度に抑えられてしまうため、どんなユースケースにも対応できるようなソリューションではありません。その点を補完するのが、「マルチオービット+モバイルネットワーク」です。
マルチオービット+モバイルネットワークは、「GEO(Geostationary Orbit:静止軌道)衛星」と「LEO(Low Earth Orbit:低軌道)衛星」、そして成層圏を飛行する無人航空機から電波を届ける「HAPS(成層圏通信プラットフォーム)」という、複数の軌道(マルチオービット)から提供されるNTNと、地上のモバイルネットワークを組み合わせて、一つの通信サービスとして提供する仕組みです。
近年は高度が低いLEOに打ち上げた衛星コンステレーションによって高速・低遅延の通信を実現するサービスが注目されていて、弊社では高速・低遅延の衛星ブロードバンドインターネットサービス「Starlink Business」を提供しています。また、今後、高品質な帯域保証付きの衛星通信サービスを提供する「Eutelsat OneWeb」も提供予定です。
こうしてGEO衛星やLEO衛星、その中間のMEO(Middle Earth Orbit:中軌道)衛星、HAPSという、あらゆるオービットから提供されるネットワークと、地上のモバイルネットワークを組み合わせて、お客様に最適なネットワークを提供します。
――衛星軌道も飛行高度も全く異なる通信サービスを組み合わせて最適なものにするということですが、具体的にどのように実現するのでしょうか?
[梅田氏]実現のために「グローバルローミング」の技術を利用しようとしています。例えば、皆さんが海外にスマートフォンを持っていく時、日本で契約したキャリアのネットワークから現地のキャリアのネットワークに自動的に切り替わっていると思います。これは国内の地上ネットワークと海外の地上ネットワークが、グローバルローミングで接続されているからです。
この技術を使って、地上ネットワークとNTNの間で自由に通信を切り替えることができる仕組みを作ろうとしていて、衛星通信事業者であるIntelsatとの共同技術検証の開始を2024年9月に発表しました。
――ありがとうございます。近年、NTNが注目を集めるようになってきていますが、業界全体でどのように通信技術が進化してきたのでしょうか。
[梅田氏]まず、通信衛星が最初に登場したのが1960年代頃で、当時は国際電話通信やテレビ放送用に使われていました。1980年代に入るとデジタル衛星通信の技術が発達し、1990年代頃からは、衛星通信を使ったインターネット接続サービスが登場しました。
そして2010年以降、一つの衛星アンテナから複数のビームを放射する「マルチビーム」の技術が登場したことで、静止軌道(GEO)上にある静止衛星の通信高速化が進みました。
2020年代になると、高度2,000kmまでのLEOに多数の衛星を打ち上げて「衛星コンステレーション」を構築して、衛星通信サービスを提供するStarlinkやOneWebなどが登場しました。それまで主流だったGEO衛星は、地球から3万6,000キロも離れたところから通信するため、遅延が生じます。一方、LEO衛星はGEO衛星よりも大幅に低い軌道にあるので、スループットも高く、低遅延という利点があるのです。距離が近いことから衛星1基あたりがカバーできるエリアは狭くなりますが、数百数千という数の衛星を打ち上げてコンステレーション(星座の意)を組んで、全体でカバーするという考え方ですね。衛星コンステレーションによって通信の大容量化が進み、データ通信の単価が安くなり、衛星通信のユースケースも増えていると思います。
また、StarlinkのスペースX、「Project Kuiper(カイパー)」を進めるAmazonなど、誰でも知っているような大企業が衛星通信業界に参入してきたこと、そして、モバイルダイレクト通信によって、私たちが普段使っているスマートフォンでも直接衛星通信を受けられるようになったことは、衛星通信技術の普及に向けた大きな要因になったと思います。
次回は、「成層圏を飛行する空飛ぶ基地局HAPSとは」と題してお話を伺います。
取材協力
ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。