物流の自動化は変種変量対応がカギ【Mujin Japanに聞く、ティーチング不要で精度100%を目指す知能ロボットとは】

(株式会社Mujin Japan 取締役CEO 荒瀬 勇氏)

少子高齢化や働き方に対する価値観の変化などにより、さまざまな業界で人手不足が深刻化しています。特に物流の現場では、トラックドライバーの労働力不足が顕在化する「2024年問題」を受けて、効率化や自動化が急務とされていますが、消費者ニーズの変化、細分化などに対応するための変種変量・多品種少量生産が進むことで、これまでのようなアプローチでは自動化が思うように進展しないという課題があります。

今回の連載は前後編の構成とし、独自の自動化統合プラットフォームを基盤に、革新的なオートメーションを実現している株式会社Mujin Japan様に、物流業における自動化の課題や最先端の自動化技術、今後の展望などをご紹介いただきます。

第1回は、「ティーチング不要で精度100%を目指す知能ロボットとは」と題して、株式会社Mujin Japan 取締役CEO荒瀬 勇氏にお話を伺いました。(執筆:後藤銀河 撮影:編集部)

<登壇者プロフィール>
株式会社Mujin Japan 取締役CEO 荒瀬 勇氏

大学にて機械工学を専攻。卒業後は台湾や米国でのエンジニアインターンシップを経て、日本国内大手機械メーカーのシステムエンジニアとして海外工場立ち上げや新機種開発などの大型プロジェクトに従事。2017年に株式会社Mujinに参画後は、営業部長、プロジェクトマネジメント部長、システムエンジニアリング本部長として数多くのプロジェクトを手掛け、中核メンバーとしてMujinの重要な柱の一つであるシステムエンジニアリング事業全体を統括。

<会社概要>
株式会社Mujin Japan
事業開始日:2024年4月1日
取締役CEO:荒瀬 勇(あらせ いさむ)
所在地:東京都江東区辰巳3-8-5
事業内容:自動化コンサルティング業務、産業用ロボット向け知能ロボットコントローラ・アプリケーション・ソフトウェアの販売およびインテグレーション業務

――初めに、御社の概要と事業内容を教えていただけますか?

[荒瀬氏]Mujin Japanは日本の製造業、物流業を中心としたお客様の自動化ニーズに応えるべく、自動化構想立案といったコンサルティング業務から、ロボットや設備のインテグレーション、工事、さらにはリアルタイムデジタルツイン環境によるリモート運用までをワンストップで提供するトータルエンジニアリング企業です。グループ会社であるMujinの創業は2011年。産業用ロボットの脳にあたるソフトウェアの技術をコア技術として事業を開始し、今では自動化による部分最適だけではなく、倉庫や工場の全体最適化を手掛けるようになってきました。

拠点は日本を含めて4カ国にあり、約30カ国から集まったエンジニアたちがインターナショナルな環境で研究開発に取り組んでいます。Mujin Japanは、主に国内市場にフォーカスした建設業許可を有するソフトウェア基盤のエンジニアリング会社として、2024年に設立しました。

物流で扱う商品の多様化と深刻な労働力不足により、作業現場の自動化が急務に

――製造業や物流業界の自動化では、具体的にどのような課題があるのでしょうか?

[荒瀬氏]製造業、物流業界は、消費者嗜好の多様化やeコマースの拡大などにより、少ない品種を大量に生産して流通させる少品種大量生産の時代から、多品種少量、変種変量生産の時代へと大きく変化しています。産業用ロボットも、生産ラインに流れてくる同じ形状の部品を決められた手順で扱うといった従来の定型作業から、いろいろな形状や荷姿の製品を認識して、それぞれの製品に適した臨機応変なハンドリングが求められるようになりました。

しかし、臨機応変に対応可能な産業用ロボットを構築するには、さまざまなセンサーを取り付けてロボットセルを構築する熟練エンジニアが必要になり、自動化の難易度が上がっています。こうした技術的な課題の他に、そもそも「自動化を進めたいが、今何が課題になっているのか分からない」、「具体的にどのように進めればいいのか分からない」というお客様も多いのです。一方で、日本の人手不足は深刻化し続けています。

――なぜ臨機応変に動く産業用ロボットの構築は難しいのでしょうか?

[荒瀬氏]従来の産業用ロボットは、一つ一つのロボットの関節の動きをあらかじめプログラミングして動かすため、決められた動作を反復することを得意としています。こうした動作のプログラミングをティーチングと呼びます。しかし、多品種少量/変種変量生産が進み、さまざまな荷物を扱うようになってきたことで、ロボットにも人間のようにフレキシブルな動きの実現が求められるようになりました。しかし、多品種に合わせて事前にティーチングしようとすると、膨大な時間とコストもかかり、非現実的です。

そこでMujinは、誰でも必要な時にロボットを活用できる世界を目指すべく、「Mujinコントローラ」を開発しました。Mujinコントローラは、各主要ロボットメーカーの産業用ロボットに接続することで、環境の変化に応じて「見て・考えて・取って・置く」を自律的にできる知能ロボットを構築します。

ティーチング不要、汎用ロボットを知能化するロボットコントローラー技術

――Mujinコントローラをロボットメーカーの産業用ロボットと一緒に導入することで、プログラミング不要な知能ロボットとして機能するということでしょうか?また、プログラミング不要とはAI制御を使われているのでしょうか?

[荒瀬氏]はい、ティーチレスな知能ロボットを構築します。「知能ロボット」という言葉から、人工知能(AI)=ディープラーニングを連想される方も多いようですが、当社はディープラーニングを採用していません。私たちが取り組む自動化の現場は、主に物流と製造業の二つで、どちらも「失敗が許されない現場」です。ロボット起因で何かの作業が止まってしまうと、倉庫や工場全体まで影響がでる可能性があり、経済的にもかなりの損害が出てしまいます。医療品関係などライフラインの要になっている工場であれば、物流の遅延が致命的な問題につながってしまうかもしれません。当社は、ロボットの制御のコアとなる部分は不透明性を完全に排除する必要があると考え、独自の機械知能「Mujin MI(マシン・インテリジェンス)」を開発したのです。

――Mujin MIについて、ご紹介いただけますか?

[荒瀬氏]機械知能であるMujin MIは、ディープラーニングのようにトライ&エラーで推論を構築していくのではなく、一定の範囲内で全てロジックの計算結果に基づいてタスクを実行します。人間の脳を模したAIを自動化の現場で用いると、「判断の根拠が分からない」という、いわゆるブラックボックス化されてしまいます。これに対してMujin MIは、それぞれの判断に対してどのようなロジックを組んだのかが見えるので、制御にブラックボックスがありません。万が一エラーが起きたとしても、「なぜそうなったのか」の原因分析や対策が可能という特徴があり、このMujin MIが私たちのコア技術です。

産業用ロボット自体は、ロボットメーカー各社様の素晴らしいハードウェアが存在していますので、当社は一部、ロボットのハンドや3Dビジョンカメラなどの開発は行っていますが、ロボットのハードウェアそのものの開発はしていません。Mujinコントローラは、主要ロボットメーカーのロボットに対応していますので、自動化ソリューションとして提案させていただいています。弊社にとって、ロボットメーカー各社様は競合相手ではなく、共にお客様の自動化を推進するビジネスパートナーなのです。

ブラックボックスのない「機械知能」と「デジタルツイン」で精度100%を目指す

――御社が開発したMujinコントローラを導入することで、ロボットのスペシャリストがいない業界でも自動化が進むということですね。

[荒瀬氏]はい、そういった世界を目指しています。ただ、倉庫や工場の自動化を推進するためには、知能ロボットによる部分最適だけではなく、入口から出口までスムーズに自動化し、全体の生産性を高めることが求められます。上流と下流を含めた工場・倉庫内の作業工程全体の最適化が必要なのです。

最近、Mujinコントローラが自動化のプラットフォームとして進化したことで、これまでのロボット制御のみならず、工程間の搬送をするAGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車)や、その他さまざまな自動機をMujinコントローラで統合制御できるようになり、全体最適化を叶えました。全体を制御することで、トラブル発生時の原因追及・適切な対応が可能になるだけではなく、現場データの見える化によるデータを基にしたさらなる改善や経営判断も可能になります。また、当社はデジタル空間でのシミュレーションと現実世界をほぼ差異なく連動させる、高度な「デジタルツイン技術」も強みとしています。デジタルツイン技術により、自動化導入前にデジタルでロボットの動きなどをシミュレーションすることが可能なので、必要最低限のスペースでの立ち上げや、短納期といった付加価値もご提供しています。

次回は、「どんなロボットでもつながる共通プラットフォームとは」と題してお話を伺います。

取材協力

株式会社Mujin Japan
株式会社Mujin(Youtube)



ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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