インクジェットプリンターで作成できる液滴レーザーディスプレイを開発 筑波大学、産総研

筑波大学は2024年12月19日、産業技術総合研究所、科学技術振興機構と共同で、インクジェットプリンターでレーザー発光する液滴を吐出させ、高速かつ大量にレーザー光源を作成する手法を発表した。この液滴に電場を加えることで発光のONとOFFが切り替えられることを見いだし、この液滴を基板上に並べた小さなレーザーディスプレイを作成した。

インクジェットプリンターで基板上に設置した液滴の写真

研究では、超撥液加工を施した基板上に、インクジエットプリンティング技術により、優れた耐久性と不揮発性を示すイオン液体である1-ethyl-3-methylimidazolium tetrafluoroborateに有機色素を添加した溶液を小さな液滴として吐出した。その結果、一般に利用されている液晶ディスプレイや有機ELディスプレイの1画素とほぼ同等サイズとなる、直径30μmほどの液滴が得られた。

インクジェットプリンターで作成した液滴は、基板上に高い位置精度で設置でき、40インチ8Kモニターと同等の解像度で2cm四方に液滴を敷き詰めることに成功している。技術的には、同等の密度で、より大きな領域にも液滴を設置できる。今回開発したデバイスは、室温大気下で数カ月以上にわたり安定しており、機械的な振動が加わっても液体が漏れなかった。

この液滴は、赤色のレーザー光(液滴レーザー)が放出されていることが明らかになった。また、透明な電極で挟んだ液滴に電場を印加すると、球体の液滴が楕円球体へと変形し、レーザー光の放出が止まった。視覚的にもこの変化が確認でき、作成した液滴が、ディスプレイの「ピクセル」として利用できることが示された。

液滴の変形によるレーザースイッチングの模式図(原著論文より引用、改変)
液滴に電場(E)を印加すると、その電場に沿って球体が楕円球体に変形し、レーザー光の放出が止まる

電場印加によるレーザー光の変化(原著論文より引用、改変)
電場を印加する前後の液滴の写真(左)。電場を印加すると赤色のレーザー発光が弱まり、自然発光注が強くなることが、測定データ(右)からも示された

一般に、レーザー光を得るには液滴が球体である必要があり、電場による変形がレーザー光の放出を止めたと考えられる。この仮説を検証したところ、楕円状に変形した液滴の内部における歪んだ光の経路がその原因であることを突き止めた。さらに、液滴を2×3のアレイ状に配置したレーザーアレイデバイスもレーザー発光の電気的なスイッチングに成功した。

レーザーアレイデバイスの構造とスイッチング性能(原著論文より引用、改変)
レーザーディスプレイとして利用するためのデバイス構造の模式図(左上)と、実際に作成したデバイスの写真(右上。図中のローマ数字は、それぞれの液滴を示す)。このデバイスに電場を印加すると、レー ザー光の放出が止まる(発光が見られなくなる)ことが明らかとなった(左下、右下)

テレビやパソコン、スマートフォンのディスプレイは、画質、鮮明さ、エネルギー効率が日々向上している。レーザーディスプレイは、その次世代型として期待されている。特に輝度と色再現度の面で、有機ELや液晶ディスプレイといった従来の発光素子の原理的な限界を突破できるが、ディスプレイとして利用するには、現在実現されている以上に素子を微細化し、高密度かつ大量に敷き詰める必要がある。

研究では、レーザーディスプレイとして利用できる液滴レーザー素子を開発。今後、デバイスのコンパクト化、液滴レーザーの耐久性、ON/OFF比の改善により、レーザーディスプレイの実用化につながることが期待される。

関連情報

プリンターで作成できる液滴レーザーディスプレイの開発に成功 | テクノロジー・材料 – TSUKUBA JOURNAL

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