核融合炉にボロンを「食卓塩のように振りかけて」出力損失を止める研究

Image credit: Oak Ridge National Laboratory / PPPL

米国エネルギー省のプリンストンプラズマ物理研究所(PPPL)の研究チームが、ボロン粉末を炉内に噴射することで炉壁表面にボロンの堆積層を形成し、タングステン原子のスパッターを防止できる可能性を示す実験に成功した。コンピューターモデルによるシミュレーションにおいても、1カ所の注入口から稼働中のプラズマ内に噴射されたボロン粉末が、炉壁表面全体に均質に堆積してタングステン表面を保護することが示された。

軽元素の原子核を衝突させて大きなエネルギーを発生させる核融合は、資源が海水中に豊富に存在することと二酸化炭素を排出しないことから、エネルギー環境問題を根本的に解決するものと期待されている。水素同位体イオンから構成されるプラズマが極めて高温に加熱され、プラズマ中の原子核が互いに衝突して融合することによりエネルギーを発生させる。

発電を目的とした核融合炉については、20世紀半ば以降、世界各国で個別に研究開発が進められてきたが、膨大な研究費用と年月を要するとの共通認識により、1980年代後半から日本を含めた国際プロジェクトとしてITER(国際熱核融合実験炉)が発足し、研究開発が進められている。

トカマク型などの核融合炉においては、極めて高温のプラズマを閉じ込める必要があり、高温に耐える炉壁材料としてタングステンが検討されている。しかし、強大な熱影響下で炉壁表面のタングステン原子がスパッターされてプラズマに入り込むことで、プラズマ温度を低下させ、核融合反応が維持できないという問題が指摘されている。

研究チームは、ボロン粉末を核融合炉内壁に「食卓塩のように振りかける」ことで、炉壁をプラズマから遮蔽し、炉壁表面のタングステン原子がプラズマに入ることを防止できることを見出し、タングステン炉壁を持つドイツと中国、米国のトカマク炉において効果を確認した。さらに、PPPLで実施されたコンピューターシミュレーションによって、ボロン粉末を1カ所の注入口から稼働中のプラズマ内に噴射すれば、「プラズマ端部でイオン化され、炉内全体の炉壁表面に均質に堆積して保護し、タングステンがプラズマに入ってプラズマエネルギーを放散させるのを防止する」ことも示した。

研究チームは、ボロン注入システムを高度化してITERプロジェクトに活用することを目指している。高度化される注入システムは、稼働中の核融合炉においてもボロンを追加注入できる。噴射されるボロン量を必要量に応じて制御でき、原子力安全性を確保するため放射性トリチウム元素を適正に極少化できるだろう、と期待している。

関連情報

Stopping off-the-wall behavior in fusion reactors | Princeton Plasma Physics Laboratory

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