重力で空気中の水を収集する、電力不要の冷却システムを開発

サウジアラビアのアブドラ王立科学技術大学(KAUST)は2024年10月8日、同大学の研究者チームが安価で入手しやすい材料と重力を使って、空気中から水を収集する冷却システムの開発に成功したと発表した。従来、実用的な量の水を収集するためには電力が必要だったが、新システムは電力不要とすることで、環境負荷の少ないシステムになる可能性がある。

地球上の多くの地域では深刻な水危機に直面している。KAUSTが率いる国際チームは、サウジアラビアのような乾燥した環境でも利用できるシステムの開発を目指し、新しい大気水分収集システムの開発を試みた。受動的大気水分収集システムと呼ばれ、電気を使わずに空気中の水分を捕集/凝縮することができる。

大気水分収集システムには、主に2つのタイプがある。1つめは、金属有機構造体、シリカゲル、ゼオライトなどの特殊な吸着剤を使用する、相対湿度が低くても機能するシステムだ。吸着材が飽和状態になるとシステムを密閉し、太陽熱によって水を蒸発させる。その後、冷却して壁に凝縮した水を収集する。

もう1つが、放射冷却シートを用いた露点回収システムで、相対湿度が高いことが必須条件となる。この装置では、空気がほぼ透明である波長域(8~13μm)の熱放射を放出する。熱は赤外線の形で空間に直接放射され、放射効果によりシートの表面温度が露点温度以下に冷却されることで水蒸気が凝縮する。

同チームは、放射冷却を利用した大気水分収集システムに焦点を当て、その効率を向上させた。一般に大気水分収集システムは、水滴が装置表面に付着しやすいことが課題で、積極的な凝縮回収が必要になる。新装置は、同チームが開発した「両面垂直アーキテクチャー」構造を採用し、コンデンサーとの接触面を、シリコンオイルで潤滑したエラストマー層でコーティングした。これにより、水滴が重力で滑り落ちやすくなり、表面に付着する問題が効果的に解消された。

サウジアラビア・トゥワールで、屋外条件下で1年間に6回試験を実施したところ、新システムは1時間当たり21g/m2の受動的な集水量を達成した。従来の大気圧集水技術と比べてほぼ2倍の集水率となる。また、20℃、相対湿度80%の屋内の試験では、理論限界の約87%の結露率を達成し、結露全体の90%を受動的に回収した。

この技術は、他の分野への応用も期待できるという。例えば、太陽電池には過熱の危険性があり、冷却のために電力を使用せざるを得なかったが、この新しいシステムは電力を使用せずパネルを冷却する道を拓くとも期待される。

研究成果は、『Advanced Materials』2024年9月6日号に掲載された。

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