- 2024-12-3
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- CZTSSe太陽電池セル, エネルギーバンド構造, カルコパイライト型CIS系化合物薄膜, ケステライト型化合物, テルル化カドミウムCdTe化合物薄膜, ドーピング, メカノケミカルプロセス, 仁川大学校, 光云大学校, 大邱慶北科学技術院, 学術, 有機系太陽電池セル, 欠陥発生, 汎用元素原料, 薄膜太陽電池セル(CZTSSe), 銀, 銀ドープ前駆体構造, 電子正孔
韓国の大邱慶北科学技術院は2024年10月24日、同大学と仁川大学校、光云大学校の共同研究チームが、ケステライト型化合物Cu2ZnSn(S,Se)4の薄膜太陽電池セル(CZTSSe)において、銀(Ag)を適正にドーピングすることにより性能を最大化することに成功したと発表した。前駆体における銀ドーピング位置を最適化することにより、Snの損失と欠陥発生を防止して電子正孔の再結合を抑制し、電流損失の低減と効率向上が可能になることを見出したものだ。汎用元素原料を用いた大量生産が可能であり、価格競争力の高いCZTSSeの実用化を促進すると期待している。
今日、生産されている太陽電池モジュールの97%は結晶シリコン系だが、光電変換効率や軽量性、形状柔軟性、低コストなどの観点から、テルル化カドミウムCdTe化合物薄膜や、銅・インジウム・セレンを主成分とするカルコパイライト型CIS系化合物薄膜、また近年注目度の高いペロブスカイトなど有機系太陽電池セルが研究開発されている。さらに銅・亜鉛・錫・硫黄・セレンから構成されるケステライト型化合物Cu2ZnSn(S,Se)4薄膜(CZTSSe)は、汎用元素原料を用いることから低コストであり、メカノケミカルプロセスにより低温で大量生産できるなど、環境に優しい太陽電池セル技術として注目を集めている。だが、これまでのCZTSSe太陽電池セルは、結晶欠陥の発生や電子空孔の再結合に起因して効率が低く電流損失が大きい問題があり、実用化が難しいという課題があった。
研究チームは、CZTSSe太陽電池セルにおいて銀をドーピングすることに着目し、前駆体のさまざまな位置に5nm厚さで銀を積層することにより、5種類の前駆体構造を試作し、太陽電池セルにおける欠陥発生および電子空孔の再結合特性が、銀の配置によってどのように変化するか系統的に解析した。その結果、前駆体積層構造をMo/Ag/Zn/Cu/Snとする場合に、その後の硫化セレン化反応プロセスにおけるSnの損失および欠陥発生が抑制され、これに伴って電子正孔の再結合が防止されて、電流損失の抑制および効率向上が最大になることを見出した。銀のドーピングによって生成される液相が、低温におけるCuSn合金の生成を促進し、欠陥のない結晶性の優れた結晶が急速に形成されるとともに光吸収層の密度が顕著に改善される。これによって、エネルギーバンド構造が改善され、最終的にセルにおける円滑な電荷輸送が実現され、太陽電池性能が向上することを確認した。一方、前駆体における銀層の積層位置が適正でないと、ZnとCuの合金形成が妨げられ、Znがバルク中に残って欠陥クラスターを形成してしまうことも確認した。
研究チームは、「この研究において、太陽電池セルの性能を向上する銀ドープ前駆体構造の設計に関して重要な知見が得られ、低コストで量産性に優れ価格競争力の高いCZTSSe太陽電池セルの効率を劇的に向上し、実用化の道を切り拓ける」と期待している。
研究成果が、2024年10月1日に『Energy & Environmental Science』誌に公開されている。