基準球面レンズの表面形状を高精度に校正する技術を開発 産総研

産業技術総合研究所は2024年11月28日、不確かさ4.3nmで基準球面レンズの球面度を高精度に校正可能な技術を開発したと発表した。高精度な光学素子の開発や製品の品質管理の高度化への貢献が期待される。研究成果は同年10月24日、「Optics and Lasers in Engineering」にオンライン掲載された。

産総研では今回、実用的な基準球面レンズの校正法として、ランダムボール法に着目した。ランダムボール法は、球の表面形状を測定し回転させることを何度も繰り返し、それらを平均化することで、完全な球(真球)を使わなくても真球を使った場合と同等の結果が得られる。

開発した校正システムでは、基準球面レンズの焦点位置に中心がくるよう球を設置し、球表面における任意の部分的な面(部分球面)に対する基準球面レンズの形状の偏差を測定する。その後、球を回転させてあらゆる部分球面形状と基準球面レンズ形状との偏差を取得し、それらの平均を求める。

その結果、それぞれの部分球面が持つ表面形状が平均化され、実質的に真球に対する基準球面レンズの形状の偏差を得ることができ、基準球面レンズの絶対形状の校正が可能となる。二球面比較三位置法では、高価な基準球面レンズを2つ用意しなければならなかったが、この方法ではその必要はない。

また、ランダムボール法では球を回転させる度に光学素子を固定する位置を精密に調整する必要があるが、基準球面レンズと測定器物の共焦点位置から測定器物が横方向や縦方向にずれることがある。こうしたミスアライメントはチルト成分やコマ成分、デフォーカス成分、球面成分などの測定誤差を引き起こすため、ミスアライメントと測定誤差の関係を理論的に解析した上で、実験的に検証し、ミスアライメントによる不確かさの評価方法を確立した。

この方法を使って、実際に調べたところ、ミスアライメントの影響は先行研究で考えられていたものより小さく、精密な調整が必要ないことが確認できた。一方、基準球面レンズの不完全性によってミスアライメントの影響が顕在化することも判明し、レンズごとに実験的にミスアライメントの影響を評価する必要があることがわかった。

こうして不確かさの評価法を確立したことで、従来ほど精度の高い焦点位置の調整を行わなくても、従来と同等の不確かさ4.3nmで基準球面レンズの球面度の校正が可能になった。

スマートフォンや内視鏡などに搭載されるカメラのレンズや曲面鏡など、球面形状を持つ光学素子の高精度化には、表面の凹凸をナノレベルに低減するだけでなく、絶対形状をナノレベルで設計形状と合致させることが求められる。これまで、産総研では、レーザー干渉計による球面度校正装置を使い、二球面比較三位置法と呼ばれる原理を用いて、ユーザーから持ち込まれる基準球面レンズの球面度の校正を行ってきたが、より簡便で実用的な手法の確立に向けて研究を進めていた。

産総研では「これらの開発技術を使った校正サービスが開始されると、より多様な基準球面レンズの校正が可能となり、光学部品関連メーカーの高精度な光学素子の開発、製品の品質管理の高度化に貢献する」としている。今後、開発した校正システムを用いたSIトレーサブルな球面度の標準供給を開始するとともに、開発した技術の普及も図る。

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産総研:基準球面レンズの表面形状を高精度に校正

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