東北大学は2020年4月3日、DNAオリガミ法と呼ばれるナノ構造体作製技術を駆使し、イオンに応答してしなやかに変形するナノアームを開発したと発表した。今回開発したナノアームは、多数の極微の変形モジュールから構成されており、それらの変形が累積されることでしなやかな動きを実現している。
DNAオリガミでは、長鎖一本鎖DNAを人工的に配列設計した多数のDNA鎖で折り畳み、望みの形状のナノ構造体を創り出せる。この手法を応用し、開閉運動、回転運動、スライド運動などの動きを示すさまざまなDNAナノマシンが作製されてきた。しかし、細胞のようなやわらかで不定形な対象に働きかけるためには、このような機械的な動きだけでなく、しなやかな動きがナノマシンに望まれていた。
そこで研究者らは、一つのDNAオリガミ構造のなかに極微の変形モジュールを連続的に配置し、しなやかに変形するナノアームを開発した。各変形モジュールは、弓に弦を張るように、適切な長さの一本鎖DNAを張ることで変形する。各モジュールの変化は極めて微小だが、その累積によって線状のナノアームが円弧状へと大きく変形し、しなやかな動きを実現できる。
実験では、各モジュールに張るDNA鎖(ブリッジ鎖)の長さに応じてナノアームの曲がり具合が変化することを示し、そしてナノアームの特定の部位を望みの曲率で曲げることにも成功。さらに、グアニン四重鎖と呼ばれる特殊な構造を形成する塩基配列をブリッジ鎖に採用し、カリウムイオン濃度に応じて屈曲・伸展するナノアームを実現した。
pH変化や他の小分子との結合によって構造変化を示すものをブリッジ鎖として利用すれば、カリウムイオン以外にもさまざまな刺激に応答した変形が可能になる。変形モジュールに分岐やねじれを設計することで、より三次元的で複雑な動作を生み出すこともできる。
本研究成果は、単純な動きが中心だったDNAナノマシンの世界に、新たな設計アプローチを提案し、細胞表面などやわらかで不定形な場で機能するナノ~マイクロスケールのロボット開発に貢献することが期待できる。