構造デザインで磁性材料の横型熱電変換性能を向上させる手法を開発 NIMSと東大

物質・材料研究機構(NIMS)と東京大学は2024年11月14日、磁性金属と半導体を交互に多数積層/接合して斜めに切断した複合材料を使うと、磁性材料特有の「横型」熱電効果を従来の材料に比べ、はるかに高い性能で利用できることを発見したと発表した。この手法で、さらに高い熱電性能を示す複合材料を開発すれば、排熱を利用した発電技術や電子冷却技術、熱センシング技術などへの応用も期待できる。

熱電効果は、固体中の電子を媒介として、熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換できる現象で、環境負荷の小さい次世代のエネルギー利用素子に有望な基盤原理の一つとして期待されている。

最も広く用いられている熱電効果はゼーベック効果と呼ばれる現象で、固体に温度差をつけることで生じる熱の流れ(熱流)と平行な方向に電気の流れ(電流)を生成できるため、未利用のまま捨てられていた排熱から発電できるようになる。

一方、その逆過程として、固体に電流を流して電流と平行な方向に熱流を発生させる効果はペルチェ効果と呼ばれ、ワインセラーやパソコンのCPUクーラーなど、小型で静音性に優れた冷却技術として利用されている。

これらは電流と熱流が平行な「縦型」の熱電効果で、実用化には複雑な3次元構造を作る必要があり、製造コストなどが課題となる。

このため、熱流と電流を互いに直交する方向に変換できる「横型」の熱電変換が注目を集め、近年は磁性材料を使って磁化と熱流の両方向に直交する方向に電流を生成する、「異常ネルンスト効果」を利用した新しい熱電素子が数多く提案されている。しかし、異常ネルンスト効果による熱電変換性能はゼーベック効果の性能よりもはるかに小さく、実用化への大きな課題となっている。

今回はこれまでの研究とは異なり、「構造デザインに立脚した複合材料を作製する」という方針を立て、磁性金属と半導体を交互に積層/接合させて積層方向に対して斜めに切断した傾斜構造体に着目した。このような複合材料では、異常ネルンスト効果のほかにも、傾斜構造に起因する別の横型熱電効果「非対角ゼーベック効果」が発現する。

研究グループは、室温付近で最高性能の異常ネルンスト効果を示すコバルト-マンガン-ガリウム(Co2MnGa)合金を磁性金属部、大きなゼーベック係数を持つp型半導体のビスマス-アンチモン-テルル(Bi0.2Sb1.8Te3)合金を半導体部として用いて、人工傾斜型多層積層体を作製した。

ロックインサーモグラフィ法で、熱電効果を測定したところ、磁化に依存しない成分と依存する成分の双方に傾斜角度に依存したジグザグ型の温度応答が観測され、それぞれ試料内部の温度分布形状が異なることを確認した。これは、多層積層体で非対角ペルチェ効果と異常エッチングスハウゼン効果が異なる空間分布で発現していることを示している。さらに、積層体の長手方向に電流を流しているにもかかわらず、両成分はともに短手方向に沿って吸熱から発熱、または発熱から吸熱と変化していることも確認した。これは、非対角ペルチェ効果と異常エッチングスハウゼン効果が、一つの複合材料中で共に横型熱電変換として機能している直接的な証拠となり、磁化の大きさや方向を制御して異常エッチングスハウゼン効果による熱流方向を選択すれば、積層体全体の横型熱電変換出力を増強できることを明らかにした。

また、試料に温度勾配を印加して熱起電力を測定したところ、磁化方向によって変調される熱電能の大きさは、これまでの磁性材料などで報告されている異常ネルンスト係数と同等でありながら、無次元性能指数の変調量は、これまでCo2MnGa合金で報告されていた異常ネルンスト効果の無次元性能指数より1桁高い性能に相当することを確認した。

横型熱電効果には、ほかにもスピンゼーベック効果など、さまざまな原理による効果が複数存在しており、今回の研究のように相乗作用によって横型熱電変換を高性能化できれば、汎用性が高い低コストの発電や冷却、熱センサー素子などへの展開も期待できる。

研究成果は同日、学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載された。

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構造デザインで磁性材料の横型熱電変換性能を大幅に向上~磁性材料を用いた熱電応用に新たな光~|記者発表|お知らせ|東京大学大学院新領域創成科学研究科

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