非対称ジグザグ端型グラフェンナノリボンの合成に成功 京大、シンガポール大、カリフォルニア大

京都大学エネルギー理工学研究所の坂口浩司教授らは2025年1月9日、シンガポール国立大学、カリフォルニア大学バークレー校と共同で、新たな合成法により、非対称ジグザグ端型グラフェンナノリボン(GNR)の合成に成功したことを発表した。開発した合成法は、非対称なZ型構造を持つ前駆体分子を設計、合成し、これを金属基板上で一方向に揃えてつなげている。

現代のエレクトロニクスには高性能な磁石が不可欠だが、従来の磁石は主に金属で作られており、重量や希少金属使用による供給リスク等の問題があるため、軽量かつ安価である炭素でできた磁石の研究が進められている。

細線状の炭素であるGNRは、その端構造を設計することで電子/磁気特性を制御できる可能性があることから注目を集めている。しかし、対称ジグザグ端を持つGNRしか合成できず、磁石の性質を示していなかった(反強磁性)。強磁性を示すと考えられている非対称ジグザグ端を持つGNRは、技術的に合成が非常に困難で、未解決の課題となっていた。

非対称ジグザク端型GNRの合成には、一方向に非対称前駆体分子を並べ、つなげるための立体選択的な重合反応が必要不可欠で、一方向に向けて非対称前駆体分子をつなげる(Isotactic)精密な重合反応の開発が必要となる。そこで研究チームは、非対称ジグザク端型GNRの合成に向けた非対称型前駆体分子を設計、考案した。

この設計指針では、金属基板上で分子が反応に適した「形」に変形し、分子が互いに認識し合い、一方向を保ちながら自然に組み上がるように設計している。

研究チームが設計した非対称前駆体分子は、期待通りに一方向に揃い重合反応が進行し、非対称構造を持つ前駆体高分子に組み上がった。この前駆体高分子を高温反応により化学変換し、世界で初めて非対称ジグザグ端型GNRの合成に成功した。

合成したGNRは、原子レベルで化学構造が解析され、分子が意図通りに一方向で重合し、さらに片側のみにジグザグ端を持つGNRだった。また、走査トンネル分光法を用いた電子状態マッピングにより、ジグザグ端への電子スピンの局在を証明した。炭素磁石を仮定した非対称ジグザグ端型GNRの電子スピン密度に関する理論計算は、実験結果と完全に一致している。

さらに、入り江構造の突起間隔を長短調整することにより、非対称ジグザグ端型GNRは、強磁性、フェリ磁性、反強磁性といった異なる磁性モードを自在に調整できることがわかり、理論による体系化にも成功した。開発した強磁性GNRである非対称ジグザグ端型GNRは、ギリシャ神話に登場する二面顔を持つ神「ヤヌス(Janus)」にちなみ、「Janus GNR(JGNR)」と命名された。

JGNRは、今後の炭素磁石の発展の起点となることが期待され、軽量で錆びず、安価な磁石の開発が可能となる。今回の成果を基に、炭素磁石の応用範囲が広がることが見込まれることに加え、量子コンピューターや量子通信技術の進展に貢献する可能性もある。

理論では、フェリ磁性や反強磁性を持つJGNRが実現できることが示唆されており、これらの磁性を持つJGNRの合成への取り組みも計画している。今後、大気安定なGNRの合成も予定している。

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