理化学研究所(理研)とリコーによる共同研究チームは2018年4月14日、患者の骨の内部を含む欠損部位の形状を再現した人工骨を3Dプリンター技術により製造する手法を開発したと発表した。
これまで、3Dプリンターで造形された医療デバイスの臨床応用例としては、レーザーや電子ビームを用いたPBF(Powder Bed Fusion)方式で造形された人工関節や人工骨などがあり、力学的な安全性を保つ必要から、素材には純チタンやチタン合金が用いられている。しかしこれらの材料は骨置換性(生体骨への置換が促される性質)がなく、生涯体の中に残存するため、金属アレルギーなどの副作用が懸念されていた。
理研では、2003年に3DプリンターによるBJ(Binder Jetting)方式で、リン酸カルシウム系粉末材料を用いた人工骨の造形に成功している。しかし作製のためには後処理工程が必要で、強度もあまり高くなく、骨置換性も乏しいなどの課題があった。
今回同研究チームは、BJ方式をベースに、インクジェットヘッドや材料を改良することで、3Dプリントしてすぐに使え、高強度で骨置換性を持つ3次元造形人工骨の造形を目指した。このBJ方式では、α-リン酸三カルシウム(α-CTP)の粉末層を作製した後、キレート剤のエチドロン酸などの各種材料が調合された凝固インクを、リコー製の試作機を用いて粉末層上に塗布することで造形する。
この方式により一層あたり150μmで積層し、相対密度が60%でありながら、圧縮強度として自家骨と同等レベルの強度25〜30MPaを実現した。さらに、プロセス条件を調整することで、細胞が好適に侵入することができる200μm程度の穴を空けることや、さまざまな形状での造形も実現した。
製造した人工骨の生体適合性は、培養環境下での培養細胞の増殖率と動物への移植実験の組織観察により解析を行った。その結果、培養環境下では良好な細胞の増殖が観察された。また、ラット大腿骨顆部に外側から直径2.2mmの孔を開け、直径2mmに造形したαTCP 3D人工骨柱(今回の新造形法による:BJ柱)とαTCPセメント円柱(既存の方法による:CE柱)を埋入して比較した実験では、海綿骨における破骨細胞と骨芽細胞の侵入が、BJ柱では1週間でみられたのに対し、CE柱は4週間でも侵入がみられなかった。新たに開発した手法で製造した人工骨は、速やかに本来の骨組織に入れ替わることが分かった。
今回の手法は、骨の内部まで含む3次元構造を設計し、高精度で3次元造形することができ、また骨本来が持つリモデリング機能を阻害しない良好な人工骨を製造できる。同研究チームでは、患者一人一人異なる形状に合わせた複雑な人工骨造形など、オーダーメード医療への貢献が期待できるとしている。