米コーネル大学のUlrich Wiesner教授らの研究グループが、わずか数秒で電子機器を急速充電できるという新しいバッテリーを発表した。
通常のバッテリーは、アノード(負極)とカソード(正極)が非導電性のセパレーターを挟んだ2次元構造になっている。Wiesner教授らは自己組織化手法を使い、エネルギーの蓄積と伝送に必要な要素をナノスケールで複雑に絡み合わせた3次元ジャイロイド構造を持つバッテリーを開発した。研究結果は2018年5月16日の英国王立化学会の『Energy and Environmental Science』で公開されている。
図は、3次元構造を模式的に表したもので、アノード(灰色)、セパレーター(緑)、カソード(青)が、互いに絡み合っているのが分かる。それぞれの大きさは約20nmだ。
まず、炭素をアノードとして、ジャイロイド構造の薄膜をブロック共重合体の自己組織化で作る。薄膜には細孔が約40nm周期で数千個存在し、細孔を電解重合によって電気的絶縁体だがイオン伝導性を持つ厚さ10nmのセパレーターで覆う。
次に、カソードを添加する。ここでは、硫黄を細孔に添加するのだが完全には充填しない。硫黄は電子を受け取ることはできるが導電性ではないので、最後に導電性ポリマーPEDOT(ポリ[3,4-エチレンジオキシチオフェン])を充填する。
ナノレベルで絡み合った構造にすることで、従来のバッテリーと比べてフットプリントが減ると同時に、電力密度が桁違いに向上し充電時間が短縮できる。Wiesner教授は「数秒、もしかするともっと早く充電できるだろう」と語っている。
また、セパレーターの穴は携帯電話やノートパソコンなどモバイル機器の発火の原因となるが、この製造方法ではピンホールのないセパレーターが形成されるのも利点だ。
もともとWiesner教授のグループは、ジャイロイド構造の太陽電池や超伝導体などのデバイス向けにブロック共重合体の自己組織化を研究していた。自己組織化したろ過膜の実験から、この原理を蓄電用の炭素材料に応用できないかと考えたのだ。
充放電により硫黄の体積が膨張すると、ポリマーは分解されて2度と結合できなくなり、バッテリーの性能が低下するという課題は残されている。それでも研究グループは、概念実証(POC)について特許権の保護を申請している。