古典的な亜鉛電池を革新する――高エネルギー密度と再充電を実現する技術

高濃度の電解質の中で、陰イオンに完全に囲まれた亜鉛イオンが結合を破り、制御された形式で堆積する様子の概念イメージ

米国陸軍研究所(ARL)を中心とする研究チームが、高いエネルギー密度を持つとともに、再充電可能な亜鉛電池を開発した。新しい種類の水溶性電解質を用いることにより、古典的だが安全な亜鉛電池技術の革新に成功したといえる。研究成果は、2018年4月15日に、『Nature Materials』誌に公開されている。

1800年に発明された世界最初の「ボルタ電池」は、陽極に亜鉛を用いた亜鉛電池だ。その後2世紀以上の間、亜鉛電池は一次電池として数多く商品化され、いまでも乾電池やボタン電池として市販されている。亜鉛電池は、適度なエネルギー密度と電解液に水溶液が使えるという安全性から日々のニーズに対応している。

しかし近年急速に普及しているリチウムイオン電池に比較すると、エネルギー密度が低いうえ、充電可能な二次電池としての用途が限定的という短所がある。これは充電時に亜鉛がデンドライト(針状結晶)として形成しやすく、セパレータを貫通してショートしてしまうためだ。

研究チームを指導するKang Xu博士は「一方でリチウムイオン電池には、テスラの車両火災やボーイング787の飛行停止等、安全性に対する懸念が生じている」とし、「リチウムイオン電池の安全上の問題は、可燃性があり毒性が高い非水溶性電解質に起因し、もしも標準電極電位が低く水溶性電解質が使える亜鉛電池が、高エネルギー密度で再充電可能になれば大変魅力的」と、その研究の狙いを語る。

研究チームは、亜鉛基塩とリチウム基塩を高濃度に含有する水溶性電解質を用いることにより、従来の亜鉛電池が持っていた欠点の克服に挑戦した。そして、陽極活物質に金属亜鉛を、陰極活物質にリチウムマンガン酸化物を使った結果、リチウムイオン電池と同等以上のエネルギー密度180Wh/kgを達成した。

さらにこの水溶性電解質亜鉛電池では、デンドライト成長を抑制し、充放電の可逆性も向上させ、達成エネルギー密度の80%を4000サイクル以上も保持することに成功した。定期的な補水も不要で低コスト、電池性能や安全性など、多くの目標を満足するものだという。

研究チームは、今回の成果は将来技術の基礎を築くものと考えており、様々な応用の可能性を視野に入れている。家電のみならず、航空宇宙や深海、軍用等、極限環境でも安全性が求められる用途に活用できるとしている。

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