酸化チタン薄膜を活用した結晶シリコン太陽電池の高効率化に成功――20%を超える変換効率を実証 産総研

産業技術総合研究所(産総研)は2020年10月22日、独フラウンホーファー研究機構太陽エネルギーシステム研究所と共同で、酸化チタン薄膜が結晶シリコンの表面欠陥を不活性化し、正孔を選択的に取り出すことで、シリコン太陽電池の変換効率を向上させることを発見したと発表した。

太陽電池の材料として最も普及している結晶シリコン太陽電池パネルの変換効率は、市販のもので20%前後だ。従来変換効率と製造コストはトレードオフの関係にあり、コスト競争力に優れた太陽光発電を実現するためには、変換効率の向上と低コスト化を同時に実現しなければならないが、従来表面欠損を不活性化する材料として知られているアモルファスシリコンは製造コストが高いという課題があった。

今回の研究では、チタンを含む有機金属錯体と水蒸気を原料として、原子層堆積法で酸化チタンを製膜。ピラミッド形状のテクスチャー構造を持つn型結晶シリコンの表面に厚さ約5nmの非晶質の酸化チタンを製膜。その後スズドープ酸化インジウム(ITO)の透明電極を製膜し、さらに銀のグリッド電極を形成して正極にした。負極にはヘテロ接合型結晶シリコン太陽電池で一般的に使用されている構造を採用し太陽電池を作製した。

疑似太陽照射による性能評価で、シリコンに直接ITOを製膜した場合と比較して、開放電圧が200mVから500mVに上昇した。また、酸化チタン薄膜を結晶シリコンに直接製膜するとそれだけでは十分な性能を得られなかったが、表面に水素プラズマを照射することで開放電圧が670mVまで向上した。

これらは酸化チタンが正孔選択性と欠陥不活性化能力を同時に持つことを示しており、正極として機能することが初めて実証された。このような従来とは異なる性質を示すメカニズムを調査したところ、酸化チタンと結晶シリコン界面に存在するチタンやシリコン、酸素、水素からなる相互混合層の組成や分布によって、欠陥不活性化性能と正孔選択性を制御できることが明らかになった。

(左)太陽電池の電流電圧特性 (右)平坦な結晶シリコンに酸化チタンを製膜した断面の高分解能透過電子顕微鏡像

今回開発した酸化チタンを用いた太陽電池では、これまで変換効率21.1%を達成しており、従来のヘテロ接合型結晶シリコン太陽電池の性能に匹敵する水準だ。

今回の研究成果は、高効率かつ低コストのシリコン太陽電池の実用化技術や、他の太陽電池への応用が期待されるという。産総研では、今後さらに高効率化を目指すとともに、紫外線耐性向上の開発研究を進める。また酸化チタンとシリコンの界面で正孔が輸送されるメカニズムも明らかにしてく。

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