- 2018-7-14
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- Advanced Engineering Materials, Hongrui Jiang, ウィスコンシン大学マディソン校, シリコンウェハー, ステルス・シート, ブラックシリコン, 学術
ウィスコンシン大学マディソン校の研究チームが、赤外線カメラから発熱体を隠すステルス・シートを開発した。シリコンウェハー表面に微細ナノワイヤ構造を形成した「ブラックシリコン」を更に高度化して、可視光だけでなく赤外線まで吸収することに成功したものである。開発されたステルス・シートにより、人体や戦車のような発熱体を、赤外線カメラから隠すことができる。研究成果は2018年6月15日付で、『Advanced Engineering Materials』誌に公開されている。
ハーバード大学が2008年に発表したブラックシリコンは、シリコンウェハーに強力なレーザー光線を照射することで、表面に数百万の微細ナノワイヤ構造を形成したものだ。入射光は、垂直に揃った密集ナノワイヤ構造の中で反射を繰り返すだけで、外部に脱出することができない。この光を完全に吸収する黒いシリコンは光の吸収率が高いため、太陽電池の高効率化や各種センサーへの応用などが期待されている。
今回ウィスコンシン大学電気コンピュータ工学科のHongrui Jiang教授が指導する研究チームは、ブラックシリコン表面の微細ナノワイヤ構造をより先鋭化することで、可視光だけでなく赤外線を閉じ込める可能性に着目した。微細な銀粒子を用いてシリコンウェハー表面を深くエッチングして作成されたステルス・シートは、2.5~15.5μmまでの中長波長領域の赤外線を約94%吸収するという。
「人体や戦車のエンジンが発生する赤外線に対するステルス技術としては、これまで重い金属製防護服か保熱ブランケットしか無かった。今回開発されたステルス・シートは、重量およびコスト、使い易さの面で画期的なものだ」と、Jiang教授。また、このステルス・シートに、中長波長領域外の赤外線発生体を導入することにより、赤外線カメラを欺くハイテク偽装も可能になるとのこと。「偽装を目的とした発熱模様を作り出すことで、意図的に赤外線検知器を欺くことができる。例えば、戦車の上に高速道路のガードレールのように見える模様を描くことで、簡単に戦車を隠すことができる。」
研究チームは、開発したステルス・シートの特許を取得するとともに、実際的な応用に向けて、プロトタイプのスケールアップを検討している。