東京大学生産技術研究所の教授 田中肇氏ら研究グループは2020年2月11日、2つの液体相の間で行き来が起きる液体・液体相転移現象の流体力学理論を構築したことを発表した。液体・液体相転移を流動により制御する上での指針を与えると期待される。
近年、水をはじめとしたいくつかの物質は、純粋な物質の液体相は1つしか存在しないというこれまでの常識に反し、構造の異なる2つの液体相が存在する可能性が指摘された。液体・液体相転移の従来の理論的取り扱いは、流れの自由度は考慮されてこなかったことから、物理メカニズムの理論的解明、特に液体の流動性が転移現象にどのような影響を及ぼすのかは明らかになっていなかった。
そこで研究グループは、液体・液体相転移を特徴づける局所的な構造と液体の流動性との関係を、新たに考慮した理論モデルを提唱し、理論解析とシミュレーションによって局所的な構造のゆらぎとその流動が相転移ダイナミクスで果たす役割を解明したという。
研究グループでは、局所安定構造の生成、消滅を伴う流体力学理論を構築。液体・液体相転移で流体力学的輸送が果たす役割を理論解析と数値シミュレーションした。
まず、局所安定構造の生成と消滅それ自体はどこでも独立に起こり得ることで、どこかに生成されたらどこかで同じだけ消滅しなくてはならないという保存則はない。その結果、理論的に液体の動的光散乱は保存則を基礎とする流体力学だけでは説明できない特異なスペクトルが現れることを予測した。
次に、2つの液体相の間で相転移が起こるとき、局所安定構造の形成に伴い、両相で密度(あるいは体積)が変化する。理論とシミュレーションにより、液体相間の密度差に応じて流動は相転移に際して必ず誘起され、その結果、相転移が加速、あるいは減速されることを示した。
このとき、液体・液体相転移は、熱力学的に準安定状態の液体から相転移が起こる核生成・成長型と、液体を急冷したときなど熱力学的に不安定な状態から安定状態へと相転移が起こるスピノーダル分解型とに分類され、シミュレーションによって流動性に起因したずれがその両方の場合に生ずることを見出した。そして、そのずれは局所安定構造の非保存性によるものであることを明らかにしたという。
研究によって液体・液体相転移を記述するための流体力学的理論が確立され、液体のダイナミクスを記述するための基本的な概念として、新たな変数である局所安定構造の密度を導入することに成功。この結果は、液体・液体相転移を示す系だけでなく、局所安定構造の動力学が支配的な系や、液体の結晶化を考察する際も有効だと考えられる。
液体における相転移の物理学を進展させ、外部からの流動により相転移を制御する際の理論的な指針を与えることもできるようになると期待される。