温度イメージングを革新する、ナノサイズの超高感度サーモメーター開発プロジェクト

アメリカ国立標準技術研究所(NIST)は、2020年10月9日、温度イメージングを革新するナノサイズのサーモメーター開発プロジェクトを進めていることを発表した。研究成果は『International Journal on Magnetic Particle Imaging』に2020年9月2日付で発表されている。

ナノサイズの超高感度サーモメーターが開発されれば、不透明な3次元物体内部の温度をミクロスケールでリアルタイムに測定できるようになるという。具体的な測定対象としては、医療用インプラント、液体冷却剤を使用する冷蔵庫、そして人体などが挙げられる。ミクロスケールでの観察ができれば、冷却剤の中でどのように熱伝達が起こっているか、人体の特定部位が炎症によって温度上昇しているかどうかなどを知ることができる。

この開発プロジェクトは「Thermal Magnetic Imaging and Control(Thermal MagIC/熱磁気イメージング制御)」と呼ばれ、温度によって磁気信号が変化するナノサイズの物体を使った温度計が肝となる技術だ。ナノ粒子の温度計を対象物内部に組み込み、温度によって変化する磁気信号をリモートセンシングシステムで読み取る仕組みだ。このナノサイズサーモメーターが開発されれば、現在の最新技術より10倍以上の精度で、1万分の1以下の小さい物体でも10分の1の時間で温度測定ができるという。言い換えると、25ミリケルビン以内の精度で一辺がわずか0.1mmの立方体を0.1秒で温度測定が可能になるといえる。

開発は、温度変化に応じて強力な磁気信号を発するナノサイズの磁石を作ることからスタートした。現存するどんな物体よりも温度変化が10倍以上も敏感な磁石を作るには、コアの周囲に異なる物質を層状に重ねていくタマネギのような構造が必要だという。

材料の組成、サイズ、形状、層の数や厚さなど、調整すべきパラメーターは無限にあり、それぞれの組み合わせから成る素材の温度感度を調べるために、NISTが開発した「Object Oriented MicroMagnetic Framework(OOMMF/オブジェクト指向マイクロ磁気モデリングフレームワーク)」というモデリングソフトが使われた。研究チームは、鉄とコバルトで作られたナノ粒子材料が有望であることを既に発見しており、今後はこのナノ粒子の周囲を包むシェル材料を追加して実際に使える感温ナノ粒子を作っていきたいとしている。

リモートセンシングシステムには磁気粒子イメージング(MPI)技術を応用した装置を使用。MPIは、ボクセル単位で磁気信号の変化を測定し、測定対象物全体をスキャンする。課題は、わずかな温度変化から生じる磁気信号も感知できるよう、ナノ粒子の磁気信号を強くすることだ。

信号増幅には、超伝導量子干渉計(SQUID)や、極めて微小な磁場変化を測定する極低温センサー、外部磁場によって原子のエネルギーレベルがどのように変化するかを検出する原子磁力計などを使用することが検討されている。

Thermal MagICは200~400ケルビン(マイナス73.15℃~プラス126.85℃)の温度範囲で測定できることを目指しており、目標としている温度範囲で測定できるようになれば多くの場面での活用が見込まれる。研究チームは、今後5年以内に最終開発に至りたいとしている。

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