- 2021-12-11
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- ACS Applied Materials & Interfaces, カイロ, セーター, タマサート大学, ポリマー, 学術, 糸, 軽量ウェアラブルヒーター, 電気毛布
温かさを持続し再利用可能で携帯可能な軽量ウェアラブルヒーター向けに、耐久性があり導電性を持つ糸が開発された。この研究はタイのタマサート大学を中心とした研究チームによるもので、2021年9月28日付で『ACS Applied Materials & Interfaces』に掲載された。
寒さが深まると、しまいこんでいたセーターや電気毛布を取り出したり、手で持てる使い捨てカイロを買い込んだりして、人々は暖を取ろうとする。しかし、セーターや毛布はかさばるし、使い捨てカイロは少しの間しか使えない。
一方で、近年、高い耐久性を持ち低電力で作動するウェアラブルヒーターが注目を集めている。しかし、布地に発熱体を埋め込んだ軽量のウェアラブルヒーターは人体を温めてはくれるが、これまでに試されたものでは、ワイヤーや糸が熱いうえに硬いものになってしまい、安全に洗たくすることができなかった。
近年、研究者たちは布地と糸を導電性ポリマーの一種であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)で処理した。この柔軟性のあるコーティングは、材料を温めて洗たくしても取れることはなかった。しかし、このポリマーは人体を温める暖として使うには導電性が十分ではなく、導電性を高めるために添加する化合物は皮ふに刺激を与えてしまう可能性があった。
そこで、研究チームは、布地に縫い付けたときに糸が安全な動作電圧で熱を供給できるように、糸に塗布するポリマーコーティングを改良したいと考えた。
まず、研究チームは、ポリマーでコーティングした綿糸を、人間の皮ふに刺激を与えないエチレングリコールに浸した。この糸は約76S/cmの導電性を示し、この導電性糸から作られた発熱体は、5Vという十分低い駆動電圧で150℃まで加熱できた。また、これまでに報告されているフレキシブルヒーターの一部よりも低い電圧で高温になることが示された。
次に、研究チームは、この導電性糸を水で何度も洗ったり、洗剤を使って一度だけ洗ったりした。その結果、どちらの場合も導電性はわずかに低下したものの、エチレングリコール処理していない場合と比べるとその低下量は顕著に少ないことが分かった。
さらに、人間の体の表面に接触する温熱システムの実践的な利用を実証するために、この導電性糸で簡単な回路構造を布地に縫い付けて、軽量かつ通気性のある温熱リストバンドを作成した。具体的には、裏地を付けた布に、複数本の糸で「TU」という字の形を縫い付けた。このヒーターを3V電源に接続して手首に装着したところ、この温熱リストバンドを前後に曲げても熱分布は安定していた。携帯性を高めるために、外部回路を介してバッテリーから電力供給することも可能だという。
この研究は、医療用温熱療法や人体を直接温める温熱管理システムなどさまざまな用途に活用できると期待される。