- 2023-2-6
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- EV, Particuology, ニッケルリッチ層状正極, リチウムイオン電池, 二酸化リチウム(LiYO2), 学術, 界面寄生副反応, 華東理工大学
モバイルデバイスやEVによるリチウムイオン電池の需要増に対応するため、リチウムイオン電池のエネルギー密度を高める開発が世界的に進められている。特にニッケルリッチ層状正極は、高いエネルギー密度の実現と競争力のあるコストという点で、次世代の高エネルギーリチウムイオン電池の有望な候補となっている。しかしながら、ニッケルリッチ層状正極は、長期間の使用によって容量が急速に低下するという問題を抱えている。
中国の華東理工大学の研究チームは、界面寄生副反応を抑制し、構造安定性を高めるとともに、ニッケルリッチ層状正極の商業的要件を満たす、シンプルでワンステップの二重改質戦略を見出した。これによって得られた正極は、優れた電気化学的性能と長期サイクル安定性を示した。研究成果は、2023年1月5日付の学術誌「Particuology」に掲載された。
ニッケルリッチ層状正極を改良する試みは、今回の研究が初めてではない。高性能のリチウムイオン電池は、急成長するEV市場における大きな需要があるため、科学者たちは以前から安定性の問題を克服しようと試みてきた。しかし、そのような努力のほとんどは、表面コーティングか元素のドーピングのどちらかに焦点を当てていた。
今回研究チームは、チタンをドープし、二酸化リチウム(LiYO2)をコーティングしたニッケルリッチ層状正極を、シンプルなワンステップの焼成法で合成した。焼成プロセスは、熱と圧力を用いて材料を固化形成する。ドーピングによって生じる強いチタンと酸素の結合は、正極の安定性を向上させる。またLiYO2ニッケルリッチコーティングは、電解液の劣化やリチウムイオン電池の容量減少を引き起こす有害な副反応をうまく防ぐことができる。研究チームが開発したこの方法は、界面寄生副反応を大幅に抑制すると同時に、正極の構造安定性を向上させることがわかった。
さらに研究チームは、X線回折を用いて正極の結晶構造を解析した。また、走査型電子顕微鏡を用いて正極の形状を研究した。透過型電子顕微鏡では超微細構造と元素分布を、X線光電子分光では表面元素組成と原子価状態を調べた。その結果、この二重改質正極材料は、100サイクル後に96.3%、500サイクル後に86.8%と、改質されていない正極材料よりもはるかに高い容量保持率を示すことが確認された。
研究者らは現在、この二重改質正極の性能を厳しい環境下でテストすることを計画している。これにより材料の安全性を確保し、商業利用を促進することを目指している。