世界で最も薄い液体薄膜を作り出すことに成功

アメリカのバーモント大学の博士課程学生のSanghita Sengupta 氏らは、世界で最も薄い液体薄膜を作り出すことに成功したと発表した。研究成果は『Physical Review Letters』に論文「Theory of Liquid Film Growth and Wetting Instabilities on Graphene」として、2018年6月8日に発表されている。

固体の表面が濡れる場合、2つの現象が良く知られている。ひとつは表面に水滴が付くがすぐに振るい落とせる場合で、もうひとつは表面にうっすらと膜が張った場合である。いずれも物理学ではよく理解された現象で、液体間の相互作用と液体と表面の相互作用の力によって説明される。液体の表面張力が強ければ水滴に、逆に固体の表面張力が強ければ液体は固体表面に薄い膜を形成する。

さらに、表面の濡れについては、3つ目の現象として、液体の原子が固体表面に薄膜を形成する「臨界濡れ(critical wetting)」が知られている。グラフェンの発見によって初めて、臨界濡れを理論的に実証が可能となり、今回、研究者らはグラフェン上での薄膜形成についてシミュレーションを進めたという。水素、ヘリウム、窒素の3種類の軽い気体がグラフェンの近くでどのように振る舞うかを調べたところ、真空の条件下ではグラフェンの1原子層上にガスの液体層が形成され始め、10~20原子の厚みまで液体層が成長するがそれ以上は成長しないと計算された。

この理由は量子力学で説明できるという。今回計算に用いた軽い気体のような中性原子や分子はトータルで電荷を持たず、原子核から遠いところを旋回している電子はモーメンタムに不均衡性を持つ。この不均衡が電子密度の違いをもたらし、原子間の短い距離で作用するファンデルワールス力が生じる。グラフェンにおいては、液体層を保持する他の静電荷や化学結合が働かないので、弱いファンデルワールス力が量子スケールで働き、軽い気体のガスの10~20原子からなる液体層を保持するという。理論計算では、グラフェンに他の原子をドープしたり、弱い電場を印加したりすることでグラフェンを引き伸ばし、グラフェン上に成長する液体層の膜厚を3~50nmの厚さに調整できるという。

グラフェンの数多くの魅力的な特性は、産業利用時にはグラフェン上に堆積する材料の厚みが原因で消えてしまい利用できないのが現状だ。今回の濡れ性の制御手法を用いることで、グラフェンの優れた特性を失うことなく、ナノスケールの液体層堆積(コーティング)をカスタマイズし、次世代ウェアラブルエレクトロニクスやディスプレイの開発へと応用できるだろうと研究者らは期待する。

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