異業種からIoTエンジニアへ。エンジニアとしての成長と開発現場で必要なこと。——ウフル 勝純一氏 アレックス・ウォン氏

ウフルは、IoT製品・サービスづくりを包括的に支援する、開発・運用サービス「enebular(エネブラー)」等、「テクノロジーと自由な発想で未来を創る」を理念に、IoTのサービス、ソリューション、コンサルティングを中心に事業を展開する。新しいIoTサービスの創出に取り組む、enebular開発部 enebular –edge-agentチーム マネージャーの勝純一氏と、同部 enebularチーム リードエンジニアのアレックス・ウォン氏に、キャリアやエンジニアに対する思いを聞いた。(執筆:杉本恭子、撮影:水戸秀一)

――エンジニアになった理由、またウフルに入社するまでのキャリアを教えてください。

[勝さん]父の仕事の関係で、家にはんだごてや基板があったので、私は小学校低学年から電子工作で遊んでいました。図書館で見た本に載っている部品を買って組み立てたり、アマチュア無線をやったり……。「ラジオの製作」という月刊誌は熱心に読んでいましたね。

大学では、工学部電気電子工学科で電子回路や電子物性、ICの中身などを勉強しました。部活は「ロボット工学研究部」で、ロボットを作ってコンテストや競技大会に出場するなどの活動をしました。ロボットを製作する過程で、機械工作も電子回路の組み立ても、プログラミングも全部やるようになり、中でもハードウェアに近いソフトウェアが好きだったので、それを職業にしようと考えました。

最初に就職した会社では、医療機器向けのDVDレコーダや、HDDVDレコーダのソフトウェアの開発をしましたが、もっとハードウェアよりの組み込み開発の仕事がしたいと思って転職し、特殊車両のソフトウェア開発に12年ほど携わりました。こなれた技術を「秘伝のタレ」のように積み重ねて、20年ぐらいのスパンで開発する世界でした。

一方で新しい技術を使いたいという思いもありました。趣味の電子工作をするなかで「Mbed」というIoTの開発プラットフォームを使うようになり、いつの間にか本を書いたり、イベントを開催したりするようになりました。その兼ね合いで、ウフルがMbedを扱うようになるタイミングで、昨年4月に当社に入社しました。

現在は、enebularにつながるエッジデバイスの組み込みソフトウェアを開発しています。組み込みエンジニアが不足していることもあり、チームに必要な技術を持つ人材を揃えることも役割の1つです。趣味のものづくりも続けていて、そこで得た情報の発信もしています。

人と人をつなぐのが得意な勝さんは、新旧技術の現場経験を活かして、スタートアップの支援も行っている

[アレックスさん]私は大学に入る時点で、実用的なビジネスを学ぼうと考えFinance Administrationを選びました。ビジネスを学ぶなかでマーケティングに興味を持ちました。またアートやデザインが好きだったこともあって、大学卒業後に1年間グラフィックデザインの勉強をしました。

最初の会社は、パッケージや宝石のディスプレイに使用するような布の商社で、香港、上海で仕事をしました。その後東京の翻訳会社に転職し、プロジェクトマネージャーを経験しました。

Webについては、中学生の時にはFlashや基本的なHTMLを書いていましたが、変化の速いWebの世界の基礎を鍛えるために、サンフランシスコで行われている3ヶ月間のブートキャンプに入りました。月曜から土曜まで、朝9時から夜8時までで、日曜日も復習などでほとんど休めませんでしたが、データベースやサーバー関連などすべてを学ぶことができ、わからないことがあっても、これまで学んだことを応用して、なんとか乗り越えられるレベルになりました。

ブートキャンプを終えてから東京に戻り、ウフルに入社しました。現在はenebularチームでフロントエンド(UI)からバックエンド(データベース設計やAPI設計など)まで、オールラウンドで仕事をしています。

行動力が自分自身を強くする

――それぞれユニークなキャリアを積んでこられていますが、ご自分の強みは何だと思いますか。

[勝さん]エンジニアが集まるイベントや勉強会に顔を出して、Webとか組み込みとかIoTにおける必要な要素などの情報収集が得意です。

異業種のエンジニアから情報収集をしている中で、ある技術の専門の方を紹介していただくことがありますが、時には自分が紹介をすることもあります。このように外部で人とのつながりを築き、知見を広げることは、エンジニアにとって重要なことだと思っています。

[アレックスさん]私の強みは多くの国で過ごした経験から、多様な環境や状況に対応できる適応性を持っていることです。実践したことのない業務を担当することになったときも、自ら行動して、解決策を自分で探ることが今までの経験によってできるようになりました。

昔はピアノを習っていたというアレックスさん。ジャズやボサノバなどあらゆるジャンルの音楽を聞いている

――エンジニアとしてのやりがいは。

[勝さん] 何かものづくりをしていく段階では、必ず何かしらの問題が出てきます。それらが解決できて、結果的に便利になって喜んでもらえるということは、エンジニアとしてうれしいですね。

[アレックスさん] そうですね。Webの世界は常に進化していて、新しいツールやライブラリがどんどん出てくるので、ルーチンの仕事はありません。新たな、わからない問題を解決できたときは、すごく達成感がありますね。

またオープンソースのコミュニティに貢献することも、すばらしいことだと思っています。
オープンソースを提供して、世の中の人たちが抱える課題の解決を手助けできることは、とても意義のあることだと感じています。

次世代のエンジニアを育てることも我々の仕事

――エンジニアにとって大事だと思うことは。

[アレックスさん]知識を共有することが大事だと思います。自分にある程度スキルがあるならば、その知識や技術を現場のエンジニアと共有して、育てることも義務の1つだと思っています

[勝さん]そのためには、人に教える力も大事ですね。会社の部下を育てるだけでなく、大学に行って教えるなど教育的な活動もあります。私は小学校に行って、技術の考え方そのものを教えることがあります。

若い人たちに向けて発信することで、ものづくりの楽しさを知るきっかけになればと思います。
ある程度エンジニアとしてのスキルを身につけたら、次の世代の人たちを育てることも考えていかなければなりません。よく、「エンジニアにとって大事なのは探究心」と言いますが、エンジニアには探究心はあって当然で、そこから先をどう行動するのかが大事なのだと思います。

[アレックスさん]もう一つ大事なのはコミュニケーションではないでしょうか。ものづくりは一人ではできないので、コミュニケーションスキルはすごく重要です。私は、トップダウンで指示を出すのではなく、フラットなやり方がいいと思っています。

あとは、書いて残すこと。新しいエンジニアが入ってきたときにも非常に役に立ちます。

[勝さん]そうですね。残すためのツールもいろいろあるので、文章で書いたり、絵で表現したり、ホワイトボードに書いたことを写真で残したり……どんな仕事でも同じだと思いますが、記録を残すことは必須だと思います。

料理が好きという勝さん。本人は「ものづくりの一環」と思っているそうで、家族の評判も徐々に良くなってきたとか

はずかしがらずに、どんどん指摘を受ける

――ではエンジニアを目指す人へアドバイスをお願いします。

[アレックスさん] 失敗を恐れず、どんどん失敗して欲しいですね。私もたくさん失敗してきたし、これからもすると思います。

[勝さん]ただ、失敗したことをいつまでも自分で抱えているのは良くないと思います。今の仕事の進め方は、開発を小さい単位で切って、なるべく早くメンバーに見てもらうというやり方ですが、いつまでも自分で悩んでいるよりは、自分で失敗と思っていてもレビューを受けて指摘してもらったほうがよっぽどいい。年長の方でも、はずかしがらずにメンバーからどんどん指摘してもらうことで、新たな発見があったり、現場ならではの考え方が刺激となったりするでしょう。

[アレックスさん] あと、これからエンジニアになる人たちには日本の開発スタイルを変えていってほしいと思います。日本はクオリティをとても大事にしていますよね。ただそのためにプロセスが長くなってしまいます。日本のイノベーションが遅くなりがちなのは、プロセスにも関係があると私は思います。日本の開発スタイルも、少しずつアジャイル的な方向に向かっていますが、もう少しスピードアップしたほうがいいのではないでしょうか。

[勝さん]私は長年、ウォータフォール型の開発をしてきたので、まだなじめないところも少しありますが、どんどんアジャイル的な手法にシフトしていかなければいけないと感じています。一方で、1つ1つの工程をじっくりと、確実に進めていくやり方から、細部にまで気を配るプロの目線が身についたことは、貴重な経験だったと思っています。

トロント出身のアレックスさんは日本語が堪能。大学で少し学んだあとは、本やドラマ、日本人の友だちが先生

――最後に、これからやってみたいことは何ですか。

[勝さん]私が以前の仕事で開発したものは、一般の方の目に触れることがなかったので、自分たちが開発したものをより多くの人に広めることが夢ですね。今開発しているものも、一般の方にも、企業の中でも使ってほしいと思っています。

また、私は今までハードウェアよりの仕事が中心だったので、Webサイドを勉強したいですね。

[アレックスさん] 1つは、enebularをコンシューマに使ってもらうこと。もう1つは、今まではWeb開発をやってきましたが、もっとハードウェアに近い言語も勉強したいと思っています。

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