水素が金属を弱くする仕組みをナノスケールで観察する手法を開発 東北大学

東北大学金属材料研究所は2020年6月4日、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、水素が金属の内部構造に影響を与えている様子の経時変化をナノスケールで観察する手法を開発したと発表した。

水素は金属の強度を低下させることが知られ、この現象を水素脆化と呼ぶ。水素は金属が腐食されたり、水素ガスに曝されたりすると金属中に侵入するため、高強度金属応用のボトルネックとなっている。

特に、腐食の可能性がある車体用高強度鋼や、水素エネルギー社会でインフラ用構造材料などを評価するためには、水素が金属を弱体化させる際のメカニズムを解明することが必要だ。しかし、水素は最も小さな原子なので、金属中で動き回り、ときには外に飛び出してしまうこともあるため、このような動きをする水素に合わせて変化する金属の内部構造をナノスケールで観察することが困難だった。

今回の研究では、電子チャネリングコントラストイメージング法という手法を用いることで、水素を導入した金属の内部構造変化をナノスケールで観察することに成功。同手法で観察した結果、転位と呼ばれる金属中の欠陥部分が、水素導入後に大きく動いていることがわかった。通常転位は力や熱が加わると動き出し、金属の変形や強度、破壊などに影響を及ぼす。今回実験中には力や熱を加えていないことから、水素が導入されたことによって転位が動いたことが示唆されているという。

さらに、上記の挙動は転位と水素だけではなく、別種の欠陥である粒界との三体の相互作用によるものであることが、今回の観察と計算シミュレーションの併用によって明らかになった。

今回開発した観察手法は、対象試料の形状の制約が小さいために、さまざまな形状の金属片および負荷環境において水素の影響を観察することができるという。また、他の手法と比較して、複雑な環境や試験片形状が必要ないという利点もある。

今回の手法は、特殊な装置を必要としないので、水素環境で使用される高強度材料を開発、研究、評価する際に幅広く活用されることが期待される。

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