発毛する皮膚オルガノイドの作製に成功――抜け毛治療に応用可能性

ペンシルバニア大学の研究者らは、ヒト幹細胞をin vitro(試験管内)で皮膚のような構造物に誘導した。マウスに移植すると毛髪が生えてくることから、再生医療に応用できる可能性が示された。研究成果は、『nature』誌に2020年6月3日付で掲載されている。

ミニ臓器とも呼ばれるオルガノイドは、in vitro系で実際の臓器を模倣して作られる細胞集団だ。これまでに腸や肺、腎臓、脳などさまざまなミニ臓器が作製されている。今回研究チームは、多能性幹細胞から毛むくじゃらのヒト皮膚オルガノイドを作ることに成功した。

研究チームは、皮膚オルガノイドを作製するために、皮膚の表皮層を誘導する成長因子、真皮層を誘導する成長因子を順次添加した。細胞は球状に成長し、70日以上経過した後に毛包が現れ始め、最終的に毛が生えた。ほとんどの毛はメラノサイトによって色素沈着していた。

また皮脂腺、神経とその受容体、筋肉、脂肪など、毛包に関連する組織が発達しており、ほぼ完全な皮膚を形成した。ただし、通常は毛包や周辺に存在する免疫細胞だけは発達しなかった。また開発したオルガノイドは、あごや頬、耳の皮膚に特徴的な遺伝子を発現していた。培養条件を変えることで、頭皮以外の部位に特徴的な皮膚も生成できる可能性がある。

さらに、研究者らは免疫不全マウスにオルガノイドの移植に成功しており、これはオルガノイドが治療の可能性を持っていることを示す。皮膚オルガノイドを傷口に導入して治癒を促し傷跡を残さないようにしたり、毛髪のない部分に移植したりすることが可能になる。また、毛包は移植後に自然と正しい方向に向きを変えた。

皮膚オルガノイドにより、人間から毛髪を採取しなくても、髪の薄い人や髪の毛がない人の頭皮に移植する毛包を無限に供給できる可能性が示された。実際の治療として用いるにはまだ課題が多いものの、今回の開発は抜け毛治療に向けた大きな一歩と言えるだろう。

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