理研など、トポロジー変化による非散逸電流のスッチング原理を確立

量子異常ホール効果を用いたトポロジカル端電流のスイッチング素子の模式図

理化学研究所は2017年10月7日、東京大学、東北大学、科学技術振興機構と共同で、磁性層と非磁性層を交互に積み重ねた「トポロジカル絶縁体」積層薄膜を開発し、磁気抵抗比1000万%を越える巨大な磁気抵抗効果を発見したと発表した。

エネルギー損失を伴わない電子の輸送現象は一般には超電導が有名だが、近年トポロジー(位相幾何学)的な電子状態を特徴とするトポロジカル物質においても、エネルギー損失を伴わない「トポロジカル電流」を流せることが分かってきた。

トポロジカル電流を引き起こす例としては「電子異常ホール効果」がある。電子異常ホール効果は、中身は電気を通さない絶縁体だが表面では電気を通す金属という特殊な物質「トポロジカル絶縁体」において発生することが報告されている。

この状態では、トポロジカル電流の一種「端電流」を磁性体薄膜試料の端や磁壁に沿って流すことができる。近年、この電子異常ホール効果を高温で安定的に実現するための研究が進められてきた。また端電流を小さな外部刺激によって制御する研究も進められてきた。

今回の研究では、磁性元素バナジウム(V)やクロム(Cr)を添加したトポロジカル絶縁体薄膜を開発。薄膜の上部にV、下部にCrを選択的に添加することによって、磁性/非磁性/磁性の三層構造を形成した。

この薄膜は2つの磁性層の保磁力の差を利用して、互いの磁化方向を外部磁場によって平行と反平行を変化させることができる。これによって、電気抵抗値を約20kΩから2GΩまで、10万倍に変化する巨大な電気抵抗効果を観測した。この高抵抗状態は、量子異常ホール効果の端電流をほぼ通さない状態であり、非散逸電流をトポロジー変化によって開閉するスイッチング原理を確立したことになるという。

同研究による成果は、トポロジカル絶縁体の学術的理解を深めるだけではなく、今後観測温度の高温化や超伝導体や強磁性体などのさまざまな物質との高品質なヘテロ構造化(組成元素が異なる固体の異種接合の一種)の実現によって、省エネルギーエレクトロニクス素子や量子コンピューティングへの応用につながることが期待できるという。

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