アルミ系近似結晶でバンドエンジニアリングにより半導体を創製――高性能熱電材料の開発につながる成果 東大

Al22Ir8近似結晶の結晶構造。Irの正20面体クラスターが立方晶を作っている

東京大学と産業技術総合研究所(産総研)は2019年6月11日、アルミ系近似結晶で、バンドエンジニアリングにより半導体を創製することに成功したと発表した。この研究成果により、半導体準結晶は熱電性能が結晶の2.5倍になる可能性があるという。

アルミ系には多くの準結晶が存在するが、これまでは前駆物質である近似結晶でも、半導体は見つかっていなかった。そこで東京大学大学院新領域創成科学研究科や、産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリの木村教授らは、半金属的バンド構造を持つアルミ系近似結晶「Al22Ir8」のバンドギャップをバンドエンジニアリングによって開き、半導体を創製することを試みた。

Al22Ir8は、アルミ系正20面体準結晶の前駆物質であるアルミ系近似結晶の1つ。木村教授らはまず、その伝導帯の下端と価電子帯の上端の電子軌道の起源を調べた。その結果、伝導帯の下端は正20面体クラスターの頂点に位置するIrのd軌道からできており、価電子帯の上端は正20面体クラスター内部のAlが8個とIrが1個からなるクラスターのp様軌道からできていることが分かった(下図)。

Al22Ir8とAl18Si5Ru8近似結晶のバンド構造と伝導帯下端と価電子帯上端の電子軌道。IrのRu置換とAlのSi置換によるバンドエンジニアリングにより、バンドギャップを開くことに成功

次に、バンドギャップを開くために、d軌道のエネルギーがIrより高いRuでIrを置換し、sp軌道のエネルギーがAlより低いSiでAlの一部を置換した「Al18Si5Ru8」の構造で第一原理計算を実行した。その結果、予想通りにバンドギャップが広がり、半導体的なバンド構造になった。

そして、半導体になることを実験的に確かめるために、Al18Si5Ru8(Al58.1Si16.1Ru25.8)の組成近傍で試料を合成したところ、Al67.6Si8.9Ru23.5の組成で、単相の近似結晶の作製に成功。この試料の熱電性能(ゼーベック係数、電気伝導率、熱伝導率)を測定したところ、ゼーベック係数、電気伝導率の温度依存性から、この試料が約0.15eVのバンドギャップを持つ半導体であることが明らかになった。

正20面体準結晶は、立方晶より2.5倍高い対称性を持っている。先述したように、Al22Ir8はアルミ系正20面体準結晶の前駆物質であるアルミ系近似結晶の1つだ。そのため、Al22Ir8から半導体が実現した場合、その熱電性能の出力因子も2.5倍高くなることが期待できる。

関連リンク

プレスリリース

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る