- 2024-10-7
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- MIT, Nature Energy, オリビン型ポリアニオン陰極材料, カーボンナノチューブ, ポリアニオン生成元素, リチウムイオン電池, 不規則岩塩ポリアニオンスピネル(DRXPS)陰極, 不規則岩塩型陰極材料, 充放電サイクル, 再生可能電力貯蔵, 学術, 岩塩(食塩)型, 遷移金属イオン
米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、コバルト(Co)やニッケル(Ni)を含まず安価なマンガン(Mn)を用いた不規則岩塩型陰極材料に、オリビン型ポリアニオン陰極材料を組み合わせた不規則岩塩ポリアニオンスピネル(DRXPS)陰極を考案し、1100Wh/kg以上の高エネルギー密度と、100サイクル後も容量70%以上の安定性を同時に実現することに成功した。地球上に豊富に存在する安価なMnを用いた陰極において、その特徴である高電圧下の高エネルギー密度を維持するとともに、充放電サイクルにおける安定性の課題を解決したものだ。リチウムイオン電池のコストダウンと高エネルギー化の道を開くと期待している。研究成果は、2024年8月23日に『Nature Energy』誌に公開されている。
リチウムイオン電池の陰極材料としては、CoやNiなどの遷移金属イオンとリチウム(Li)イオンが交互に配列した層状の結晶構造を持つ岩塩(食塩)型と呼ばれる構造の材料が用いられている。コバルト酸リチウム(LiCoO2)がその代表であり、近年ではNiを主体にした材料やCoやNiを混合したものも開発されている。一方で、NiやCoが資源的に稀少であり高価であることから、地球上に豊富に存在し、NiやCoよりも5~30倍も安価であるMnを岩塩型結晶中の遷移金属イオンとして用いることが研究されてきた。これまでに、従来の陰極材料の容量が190~200 mA/g であるのに対し、Mnを用いた陰極材料の容量は350mA/gにも達する特徴を有することが確認されてきた。しかし、電極反応における酸素の酸化還元に伴って、酸素が離脱して電解質と反応するため、充放電サイクルにおいて電池性能が急速に劣化する問題があることが明らかになっている。
研究チームは、Mnを用いた陰極材料のサイクル安定性の課題を克服するため、糊のように酸素を保持して劣化を軽減するリン(P)を加えることに着眼し、適正なP量を有するオリビン型ポリアニオン陰極材料と組み合わせ、岩塩型結晶格子にポリアニオンを導入することを試みた。その結果、「Pと酸素の間の強い共有結合によって酸素の流出を防止し、優れたサイクル安定性を確保できた」と説明する。得られたDRXPS陰極を用いたリチウムイオン電池では、4.5V以上の高電圧条件で1100Wh/kg以上の高エネルギー密度と、100サイクル後も70%以上の安定性を同時に実現することが確認された。
「地球上に豊富に存在する安価なMnを用い、サイクル安定性に優れ、安価で高エネルギー密度のDRXPS陰極は、将来の低炭素社会または脱炭素社会の実現に必要な再生可能エネルギーインフラを、低コスト化/高エネルギー化するための重要な可能性を持っている。しかし、いまだいくつかの研究分野が残されている」と研究チームは語る。
現在、均質で適正な形態を持ったDRXPS陰極材料の合成方法およびスケールアップ、導電性を確保するために添加されるカーボン量を削減するカーボンナノチューブの活用、LiやMn、P、酸素の最適比率や、ホウ素(B)やシリコン(Si)、硫黄(S)など他のポリアニオン生成元素との組み合わせについて検討している。