鉱工業廃水から有毒な銅イオンを選択的に除去する新材料を開発――生体細胞がヒント

生体のメカニズムにヒントを得て、鉱山廃水中の有害な銅イオンを、速やかに選択的に吸着できる材料が開発された。 Credit: Berkeley Lab

ローレンス・バークレー国立研究所の研究チームが、鉱山廃水中に含まれる有害な銅イオンを、速やかに選択的に吸着できる新材料を開発した。生体細胞が極微量の銅イオンを選別して取込み、呼吸や代謝を調節する銅結合タンパク質を生成するメカニズムにヒントを得て、結晶中のナノチャネル構造が水溶液中で膨張して比表面積が拡大することにより、銅イオンを選択的かつ効率的に吸着除去できる水素結合有機無機複合体超分子を考案したものだ。従来の水処理システムにおける銅イオン吸着物質と比較して、30~50倍も速く銅イオンを選別捕捉することができ、鉱工業などの汚染廃水の浄化だけでなく貴金属元素の抽出などに、広く展開できると期待される。研究成果が、2020年8月7日の『Nature Communication』誌に公開されている。

鉱工業活動の世界規模の拡大に伴い、環境生態系に深刻な汚染が進み、多様な水資源においても様々な弊害がクローズアップされている。特に、水資源における重金属の混入は極めて有害であり、その中で銅イオンは臓器不全などの疾病をもたらすことが知られ、歴史的にも数多くの害毒事件を生じている。汚染廃水から銅イオンを除去する有望な方法として、吸着による分離プロセスがあり、ゼオライト様イミダゾール構造体ZIF-8などの多孔質金属有機構造体が開発されている。しかし、廃水から銅イオンを正確に分離する化学的選別性と吸着容量が充分ではなく、また鉱山廃水などのpH<4の強酸性条件では吸着機能が低下するなどの問題がある。

研究チームは、生体内で細胞が極微量の銅イオンを選別して取込み、呼吸や代謝を調節する銅結合タンパク質を生成するメカニズムにヒントを得て、銅イオンを選択的に吸着できる水素結合有機無機複合体に着目し、イミダゾール環と銅キレートサルチルアルドキシムから構成される超分子ZIOSを考案した。

ZIOSは、多孔質の金属有機構造体に比べると比表面積が小さいにも関わらず、水溶液環境に浸漬されると水分子との相互作用に基づく“水素結合ネットワーク”によってスポンジのように膨張し、結晶構造内部にあるナノチャネル構造も同時に膨張する。この膨張したナノチャネルに、銅イオンを含む水が大規模で流入し、銅イオンとZIOSの間に生じる配位結合によって、銅イオンが選択的かつ効率的に吸着される。その結果、従来の銅イオン吸着物質より30~50倍も速く銅イオンを選別吸着するとともに、特にpH<3領域で銅イオンに対する選別性が高くなり、鉱山廃水における浄化に非常に有効であることが明らかになった。

研究チームは、他の重金属の選択的な除去についても検討する予定だが、単に汚染物質の除去に留まらず、廃水から貴重な金属や微量元素を「採掘する」ことも目指して、選別性と吸着性の高い水素結合有機無機複合体の設計原理を構築することにチャレンジするとしている。

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