自宅で作れる「生体材料」を開発――「紅茶キノコ」がヒント

Image: Chenfu Hsing

マサチューセッツ工科大学(MIT)とインペリアル・カレッジ・ロンドンの共同研究チームは、酵母とバクテリアの共生培養により、環境物質の感知などさまざまな機能を持つセルロースベースの機能性生体材料を作り出す新しい方法を開発した。遺伝子組み換えした酵母そのものや酵母が産生する酵素をバクテリアセルロース中に組み込むことで、バイオセンシングやバイオ触媒作用に応用できる材料を生産する。研究成果は、『Nature Material』誌に2021年1月11日付で公開されている。

今回開発したシステムは、発酵飲料のコンブチャ(Kombucha)のもとになる酵母とバクテリアの共生コロニーである「SCOBY」をヒントにしている。日本では紅茶キノコという名前でも知られているコンブチャは、紅茶にSCOBYと砂糖を加えて家庭でも簡単に作ることができる発酵飲料だ。発酵途中で、エタノールやセルロース、酢酸などが生成する。

数年前、MITでは金ナノワイヤーのような物質を埋め込んだバイオフィルムを大腸菌で生成する方法を開発した。しかし、この方法で生成したバイオフィルムは薄くて小さいため実用的ではなかった。そこでスケールアップするために、SCOBYに注目した。

研究チームはさまざまな機能性を持たせるために、コンブチャに使われる野生酵母の代わりに遺伝子組み換えが容易な実験用酵母Saccharomyces cerevisiaeを使用した。バクテリアは、以前にインペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者がコンブチャから分離したセルロース生産菌Komagataeibacter rhaeticusを用いた。

Syn-SCOBYと名付けたこのシステムを使えば、材料は数日で成長し、長期間培養すればバスタブを埋めるほどにまでなる。非常に安価で簡便な方法で、大腸菌システムの少なくとも1000倍以上の量を生産可能だ。

研究チームは、Syn-SCOBYにより、環境汚染物質としても知られるエストラジオールを感知する酵母をセルロースに組み込んだ材料を作成した。また別の材料では、青色光の照射により発光タンパク質ルシフェラーゼを生成する酵母株を使用した。これらの酵母は、他の汚染物質、金属、病原体を検出する酵母株に置き換えたり、検出後に分解されるようにプログラムしたりできる。

今回の研究では一般的な酵母培地を用いて培養したが、コンブチャをヒントにしているということはSyn-SCOBYも家庭で培養できることを意味する。研究者たちは、水フィルターなどの有用な材料を一般家庭でも育てられるようにカスタマイズすることを考えている。

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