非磁性であるグラフェンに人工的な「磁気テクスチャ」を導入することに成功

Credit: University at Buffalo.

バッファロー大学を中心とする国際研究チームが、グラフェン単層シート上に強磁性材料を接触させることにより、電子スピンの集合体である微細な磁化配列領域「磁気テクスチャ」を誘起することに成功した。本来は非磁性材料であるグラフェンに電子スピンを注入できる可能性を示したもので、高い電荷キャリア移動度と併せて電子スピンの制御と伝導も活用するグラフェン・スピントロニクスを発展させると期待される。研究成果が、2021年2月25日の『Physical Review Letters』誌に論文公開されている。

近年、従来のエレクトロニクスが電子によって運ばれる電荷を利用するのに対し、電子の持つ磁気的性質である電子スピンを半導体中で利用するスピントロニクスが大きな注目を集めている。スピントロニクスによって、超高速演算が可能な量子コンピュータや低消費電力で動作するスピントランジスタなどのデバイスを実現するには、多数の電子スピンの向きを揃えて、電気的に運びを制御することが必要になる。しかしながら、電子スピンにはスピン緩和現象が発生するため、スピンの向きが揃った状態を長時間保持し長距離を運搬することは難しい。一方でグラフェンにはスピンが緩和されにくいという特徴があり、スピントロニクス材料として有望とされているが、本来非磁性材料であり、どのように電子スピンを注入するかという課題について、世界的に活発に研究がなされている。

日本や中国などの研究者を含むバッファロー大学を中心とする国際研究チームは、グラフェンに強磁性材料を接触させることにより、グラフェン中の炭素原子の磁気的性質の変化について研究した。厚さ1nm以下のグラフェンシート上に、厚さ20nmの強磁性コバルト薄膜磁石を直接コンタクトするように配置し、周囲の電流特性の変化に注目した。「ちょうど紙のシートの上にレンガを置いたようなものだ」と、研究チームを指導するバッファロー大学電気工学科のJonathan Bird教授は語る。その結果、グラフェンに磁気テクスチャが誘起され、それがコンタクト点から数μm離れた領域のグラフェンにも及ぶことを明らかにした。

簡単に言うと、グラフェンとコバルト磁石を密接にコンタクトさせることで、通常は非磁性の炭素原子が、鉄やコバルトなどの強磁性原子と同様の磁性を発揮するようになった。数μmの距離はナノデバイスとしては充分に大きく、非磁性グラフェンの広い領域に磁気テクスチャを人工的に導入できたと言える。

グラフェンにおける磁気テクスチャ誘起の起源に関して不明な点もあるが、電子スピンの量子的性質を活用するスピントロニクスにより、小さなデバイス中により多くのデータを積み込むことができる。そして、磁気テクスチャは従来の強磁性体の磁壁に比べ極めて低い電流で駆動できることから、半導体や量子コンピュータ、大容量記憶装置などの能力を飛躍的に高めることも、研究チームは期待している。

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Putting graphene in a spin

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