木造建築に耐火性を――木材を炎から守る無色透明なコーティング技術を開発

NTUsg/YouTube

木材に耐火性を付与する無色透明なコーティング技術が、シンガポールの南洋理工大学(NTU)の研究チームによって発明された。欧州委員会の定めるシングルバーニングアイテム試験(SBI)などの防火性に関する工業規格試験において、燃焼が表面以下の下層部に拡大しないとともに、非常に少ない煙しか発生しないことが確認された。カーボンニュートラルに向けて見直されている木造建築において、大きな障害となる木材の可燃性を克服し、木材の使用を拡大する突破口になると期待される。

カーボンニュートラルに向けた取り組みが多様な分野で広がる中で、建築分野においても鉄鋼やコンクリートに比べて製造過程におけるカーボン排出量が圧倒的に少ない木材の活用が見直されている。日本では2010年以降、公共建築物等における木材の利用を促進し、木造建築を推進する法制が整備されている。シンガポールにおいては高層建築を含めて、コストを低減するとともに建築期間を短縮でき、生産性を35%まで向上できるプレファブ工法が政府により推進されている。

特にその中で、MET(Mass Engineered Timber)と呼ばれる木製プレファブ部材が注目されている。だが、木材使用の拡大に大きな障害となるのが、間違いなく可燃性の問題であり、人が多く集まる建物や火を使う場所の内装には、消防法などで木材の使用が厳しく制限されている。火事から木造建築内部を守るための手法としては、石膏やマグネシア(酸化マグネシウム)のボードと組み合わせた難燃性パネルを用いるか、難燃性塗料で厚く塗装する必要がある。ただし、いずれの場合も木目など木材の自然な美しさを犠牲にせざるを得ない。

研究チームは、木材の自然な美しさを保つとともに、火炎に曝されても炎に対する障壁を構成することができる無色透明なコーティング技術の開発にチャレンジした。その結果、わずか0.075mm厚の非常に透明なコーティング層において、コーティング樹脂中に特定の化合物を導入し、高温の炎によって加熱されたときに化学反応により、コーティング層の30倍以上の厚さを持つ耐火性炭化層を形成する手法を見出した。

この炭化層は耐熱性を持って高熱を遮断するように設計されており、欧州委員会が防火性試験として定めているシングルバーニングアイテム試験(SBI)では、燃焼が炭化層下側の木材部に拡大しないとともに、非常に少ない煙しか発生しないことが判り、最高級の結果を達成した。炭化層を削り落すと、内部の木部は元のままであり、木材を守るコーティングの性能が実証された。

研究チームは幾つかの企業とライセンス化を進めているが、その中で木製プレファブ部材METのコーティングによる耐火性強化が検討されている。これを通じたMETの拡大は、木造建築のコストを低減し、持続可能で木造建築の自然な美しさを発現する生産性の高い建築技術を促進して、木造建築分野における革新的な一歩になると期待している。

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Invisible coating protects wood from fire

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