- 2022-9-30
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- イリノイ大学シカゴ校(UIC), エチレン, カーボンニュートラル, カーボンネガティブ, メンブレン, 二酸化炭素, 再生可能エネルギー, 学術, 水素イオン, 水蒸気クラッキング法, 炭素イオン, 電解還元法
イリノイ大学シカゴ校(UIC)の研究チームが、産業分野で排出される二酸化炭素(CO2)をエチレン(C2H4)にほぼ100%変換できる手法を考案した。水の電気分解により生成される水素イオンと、二酸化炭素の電解還元により生成される炭素イオンを結合させてエチレンを製造するもので、二酸化炭素を含まない高純度のエチレンガスを得ることができる。研究成果が2022年9月9日に、『Cell Reports Physical Science』誌にオンライン公開されている。
地球温暖化をもたらすCO2の削減は世界的な重要課題であり、回収や固定化、地下貯蔵などの研究開発が進んでいる。回収したCO2の処理方法の1つとして、水素などの還元剤または再生可能エネルギーを利用して、エチレンやアルコール、ガソリンなどの有用物質に変換することが検討されている。その中で、エチレン(C2H4)はパッケージ用や農業用、自動車産業向けのプラスチック製品の主要素材として、また不凍液や医療用滅菌装置、建物の樹脂外壁用の化学物質を製造するためにも用いられており、年間1億6000万トンが製造されている。これまでに、反応炉を用いて排出CO2ガス流中でC2H4を製造する技術など、CO2をC2H4に変換する試みが成されてきたが、CO2排出量の10%程度しかC2H4に変換できなかったり、CO2との分離が不十分で最終的にエネルギー大量消費型プロセスでC2H4をCO2から分離する必要があるという課題がある。
UICの研究チームは、電気化学的にCO2を還元する電解還元法を利用して、C2H4を製造するプロセスに着目して、CO2との選択分離性の高い電解セルの開発にチャレンジした。メンブレンによって分離された2つのユニットの内、1つには水性溶液を、もう1つには回収されたCO2を満たした。銅メッシュの触媒を用い、電解セルに矩形型振動電圧を負荷することにより、水性溶液側で電気分解により水素イオンを、CO2側では電解還元により炭素イオンを生成して、水素イオンがメンブレンを透過し炭素イオンと結合することによってC2H4を製造することに成功した。この手法では、CO2をほぼ100% C2H4に転換できるとともに、高い選択分離性を実現してCO2を含まないC2H4を得ることを見出した。
通常のC2H4製造方法である水蒸気クラッキング法では、1トンのC2H4を製造するために約1.5トンのカーボンが発生するが、開発されたプロセスではC2H4を1トン生産するごとに、大気中に放出されるはずの6トンのCO2を殆どリサイクルできる。このシステムは電気によって作動するので、再生可能な電力を利用することにより、プロセス全体をカーボンネガティブにすることができる。「これまでのCO2削減および捕捉、変換技術の目標であるカーボンニュートラルを超えて、カーボンネガティブを実現できる」と、研究チームは語る。同じ電解セルを用いた手法により、他の有用な炭素系製品を製造することも検討している。
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