赤外線で電力を送る――30m級のワイヤレス電力伝送システムを開発

Image Credit: Jinyong Ha, Sejong University

韓国の世宗大学校の研究チームは、30m級の空間伝送型ワイヤレス電力伝送(WPT)システムを開発した。トランスミッターから赤外光を射出し、レシーバーが受けた光を太陽電池で電気に変換する。携帯電話やタブレットだけでなく、IoTデバイスや工場設備のセンサーへ給電できる可能性がある。研究結果は、2022年9月12日付の『Optics Express』に掲載されている。

電波や光を使った長距離WPTは、これまでも研究されてきた。しかし、電波による伝送は人体への安全性の限界による制約や、長距離伝送効率の維持と電力レベルの両立の困難さといった課題があった。また、単色レーザー光は高出力の伝送が可能だが、目の保護など、国際規格IECが定める安全基準を満たす必要がある。

こうした課題に対処するため、再帰反射ビームフォーミングを利用した「共鳴ビーム充電(RBC)」が有望視されている。研究チームはRBC技術を基に、高出力で低損失の光を安全に提供できる「分散型レーザー充電」システムを提案した。

分散型レーザー充電システムでは、光学部品を1つのデバイスに組み込んだ従来のレーザー共振器とは異なり、トランスミッターとレシーバーが分離している。両者を互いに見通せる場所に置くと、空中で光共振器が形成され、光による電力伝送が可能になる。もし、人などが見通し線を遮ると、自動的にセーフモードに移って光強度を落とすため、安全性も高い。

トランスミッターには、エルビウムドープファイバ増幅器(EDFA)や波長分割多重(WDM)フィルターを使用した。中心波長は、眼や皮膚に害のない1550nmだ。レシーバーには、トランスミッターとのアライメントが容易なボールレンズのレトロリフレクターや、光を電気に変換するための太陽電池などを組み込んだ。

実験では、大きさ約10×10mmのレシーバーがトランスミッターから30m離れた場所で400mWの光を受け、85mWの電力に変換した。セーフモードの機能も確認できた。

モバイルデバイスを充電するには電力が足りず改良が必要だが、現時点でもセンサーに給電するには十分なレベルだ。「工場で電源ケーブルの代わりにレーザー充電システムを使えば、断線などによるメンテナンスコストを抑えられる。電気配線が物理的な干渉や火災の原因になりそうな環境では、特に有効なシステムになるだろう」と、研究チームを率いるJinyong Ha氏は語る。

今後は、太陽電池の変換効率を上げ、複数のレシーバーを同時に充電できるようにするなど、実用化に向けた研究を進めている。

関連リンク

Researchers use infrared light to wirelessly transmit power over 30 meters
Long-range wireless optical power transfer system using an EDFA

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