発電所からの二酸化炭素排出削減を可能にする新合金を開発

Photo by Craig Fritz

アメリカのサンディア国立研究所を中心とする研究チームが、スーパーアロイなど既存の超耐熱合金よりも軽量かつ優れた耐熱強度を有する、高融点耐火金属を用いた「多種主要元素合金(MPEA)」を開発した。実験的にも作製が難しい高融点耐火金属の多種元素合金系における新合金探索に、粉末金属を短時間で溶融して素早くサンプルを作製できる3Dプリンティングを活用し、タービン蒸気温度を上昇させて発電効率を向上できる新材料を開発したものであり、発電所からのCO2排出削減が可能になると期待される。研究成果が、『Applied Materials Today』誌の2022年12月号に論文公開されている。

これまで人類の文明の発展に主要な役割を果たしてきた材料の大半は、単一基本元素に少量の他元素を加えた合金系材料だ。例えば社会インフラを支える鉄鋼は、主要元素である鉄に少量の炭素などが加えられて高強度を得ている。またシリコン半導体では、微量のドーピング不純物を添加することによって、p型n型の半導体を実現している。それに対して、3種以上の元素が主要元素として同程度に混合される多種主要元素合金(MPEA)が、新しいカテゴリーの金属として注目を集めている。MPEAの特徴は、多元素の固溶強化を強化メカニズムにしているため微小亀裂が形成し難く、多様な特徴を持つ複数の結晶相から構成される点だ。このことから、高強度と高延靭性を両立し、耐熱性や耐摩耗性、耐食性などを発現すると期待されている。

研究チームは、Ni基やCo基など既存のスーパーアロイを超える耐熱強度を有する合金の開発にチャレンジしている。一般的に、金属は融点の半分を超える高温領域では、軟化やクリープ(持続的な応力により時間と共に歪みが増大していく現象)が始まり耐熱性を維持できない。NiやCoの融点が1450℃前後であるのに対して、NbやMo、Taなど耐火金属元素は2450℃以上の高融点を持ち、優れた耐熱性が期待されることから、研究チームは高融点耐火金属を用いたMPEAの開発を試みた。

ただし、高融点金属を溶融合金化するには非常に高い温度領域における処理が必要で、多元素の膨大な組み合わせについて系統的な実験を行うことは難しい。そこで、研究チームは、高エネルギーレーザーを用いて多種の粉末材料を瞬間的に溶融合金化し、急速冷却して凝固させ容易にサンプルを得られる3Dプリンティングを活用した。そして系統的な探査の結果、42%Al-25%Ti-13%Nb- 8%Zr-8%Mo-4%Ta合金が、現在タービンに使われているスーパーアロイに比べて、軽量かつ800℃と高い耐熱強度を有することを確認するとともに、電子構造理論により高い耐熱性の根拠を熱力学的に検証することにも成功した。大型タービン部材の実機製造までには多くの課題が残されているが、「新合金によってタービン蒸気温度を上昇できれば、発電容量が増大し排出CO2を削減できる。また、多元素間の原子レベルの相互作用に基づいたコンピューターモデル計算による材料特性の予測と、3Dプリンティングによる効率的な実験手法を組み合わせた新しい材料科学研究の途が拓かれた」と、研究チームは説明する。

関連情報

New superalloy could cut carbon emissions from power plants – LabNews

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