切断された手の指の機能を3Dプリント製義指で回復させる――作製用データをオープンアクセスに

3Dプリント可能で使いやすい画期的な手指義手(手指エピテーゼ)「Lunet」が、2023年にRed Dot: Luminary Awardをはじめとする名誉あるデザイン賞をいくつも受賞している。Lunetは、米ヒューストン大学を2022年に卒業したDavid Edquilang氏が在学中に開発したもので、手の指を切断した人たちに、低コストで手指の機能を回復させるソリューションを提供できる可能性がある。

手の指を人工的に補う義指は、腕や脚と比べて必要不可欠なものである、とはみなされないため、アメリカでは義指作製費用に対して医療保険が適用されないことが多いという。また、通常の使用では壊れないように、頑丈で可能な限り強いものにする必要があるが、一般に手指義手は複雑で、多くの部品を必要とする。部品が多ければ多いほど、故障する箇所も多くなるため、耐久性が低下してしまうという問題がある。

Edquilang氏は、特別な工具を使わずに組み立てられる手指義手としてLunetを設計した。当時、Edquilang氏の指導教官だったJeff Feng准教授が凍傷で手の指を切断した患者と知り合い、Edquilang氏はそれまでに携わった上肢義手開発の経験を生かしてLunetを作製。患者が再び物をつかんで持ち上げられるようにした。さらに改良を重ね、最終設計では耐久性が増強され、組み立てやすく機能性も向上したものが出来上がった。

Lunetは、ポリ乳酸(PLA)と熱可塑性ポリウレタン(TPU)という2種類の一般的な3Dプリント用樹脂材料でできている。それぞれの指は4つのパーツから成り、パーツをプラスチックのピンでつなぎ留めている。この義指の動きの基本は円弧と円軌道であり、地球を周回する月のように、義指が使用者の指の関節周囲を回るように動くことが、「Lunet」という名前の由来となっている。

Lunetのもう1つの独自性は、ほとんど壊れないということだ。Edquilang氏は構造上の弱点がどこにあるのかを確認するため、試作品の1つをわざと壊してみた。その結果、指先の骨をつなぐ第1関節(DIP関節)で曲がってしまったため、それまでは硬く曲げられなかった第1関節部分に、リンク機構を追加した。

標準的な義指製作には数十万円もかかることもあるが、Edquilang氏は自分のデザインを有料販売するのではなく、インターネット上で誰でもアクセスできるようにすることを目指しており、Lunetを無料で利用できるようにすることで、たくさんの人を助けることができると考えている。

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