ISSの微小重力実験により、新たな材料を発見する研究を実施

微小重力実験により新たな材料を発見する研究が、イギリスのストラスクライド大学の研究チームによって企画され、国際宇宙ステーション(ISS)で実施された。実験では、粒子が分散する液体に振動と加熱を組み合わせて与えることで、粒子が自己配列して極めて規則的な構造を形成することが明らかになるなど、これまでにない新しい材料の創成に関する知見が得られた。電気を伝導する非金属材料や、ワクチンデリバリーに使えるタンパク質結晶など、新しい医薬や環境に優しい金属の創成に応用できると期待している。

ISSは現在、アメリカ、ロシア、日本、ヨーロッパ(ESA)、カナダの共同プロジェクトとして運用されている。地上から約400km上空に建設された巨大な有人施設であり、1998年に建設が始まり2011年に完成した。サッカー場ほどの大きさがあり、実験モジュール、居住モジュール、電力を作り出す太陽電池パドル、船外作業に用いるロボットアームなどから構成される。日本開発の実験棟「きぼう」も重要な役割を果たし、国際共同研究推進に貢献している。

ISSにおける実験研究の重要な役割の1つは、地球上で観察するのが難しい、重力の影響を排除した微小重力条件におけるさまざまな物理的、化学的、生物学的な現象に関する研究だ。イギリス宇宙庁が中心となって進めている微小重力実験には、2021年に実施されたノッティンガム大学とエクセター大学の共同研究チームによる、生きたミミズの筋肉の宇宙飛行による劣化の研究「Molecular Muscle 2」と、リバプール大学の研究チームによる人間の筋肉細胞の老化の研究「MicroAge1」がある。今回ストラスクライド大学の研究チームによる、微細な粒子が分散する液体の加熱振動を利用した材料創成に関する研究「Particle Vibration」が3番目の実験テーマとして採択され、イギリスの企業QinetiQが製作した実験研究機器が、2023年4月にフロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられた。

3カ月間かけて行われた実験は、搭乗する宇宙飛行士と、地上からリモートでリアルタイムに実験の指導および観察を行う研究チームの協力で推進された。その結果、微細な固体粒子や他の種類の液滴を含む液体に、一端からの加熱による温度傾斜を与え、外部から振動することによって、粒子や液滴が自己配列して極めて規則的な構造を形成することを発見した。実現する規則構造は、粒子や液滴の質量などの条件によって変化することもわかった。精緻なコンピューターシミュレーションによる予測を実証したもので、研究チームは「このような実験によって、地上で製造するものより高品質な材料を創成することができる。電気を伝導する非金属材料や、ワクチンデリバリーに使えるタンパク質結晶など、人類の健康と発展に有効な材料の創成に応用できる」と期待している。

関連情報

High flying International Space Station experiment pushes boundaries of knowledge | University of Strathclyde

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