電子冷却や熱電発電ができる新しい機能性材料「熱電永久磁石」を開発 NIMS

物質・材料研究機構(NIMS)は2023年11月30日、磁場や磁性により、電流と熱流がそれぞれ直交する方向に変換される横型熱電変換の性能を大幅に向上できることを発表した。さらに、電子冷却や熱電発電ができる新しい機能性材料「熱電永久磁石」を開発した。

ゼーベック効果やペルチェ効果は、熱流と電流が同じ方向に変換される縦型熱電効果で、熱電変換技術の応用に向けて研究が進められている。縦型の場合は熱電変換効率が高いが、短所として素子構造が複雑になる点が指摘されている。

一方、横型熱電効果を用いれば素子構造が簡略化され、熱電変換素子の高効率化、低コスト化、耐久性向上につながると期待されているが、熱電変換効率が実用レベルに達していないなどの問題がある。

さまざまな物理現象により駆動される横型熱電変換は、磁場や磁性によって生じる現象 (磁気熱電効果)と素子構造や電子構造の異方性によって生じる現象に分類され、各現象の研究は独立して進められてきた。

研究チームは今回、同時に磁気熱電効果を含む3種の異なる現象を発現させる複合材料を作製し、横型熱電変換による冷却の高性能化を実現した。大きな磁気熱電効果を示すBi88Sb12合金と大きなペルチェ効果を示すBi0.2Sb1.8Te3合金を用い、人工傾斜型多層積層体を焼結法により作製している。

まず、横型熱電変換の詳細な振る舞いを明らかにするために、人工傾斜型多層積層体における熱電変換過程を、ロックインサーモグラフィ法と呼ばれる熱計測技術により可視化した。その結果、吸熱/発熱源はBi88Sb12/Bi0.2Sb1.8Te3界面近傍に局在し、熱拡散によりそれが広がり、定常状態では切断角度の45度に対応した三角形型の温度変化分布が生じることがわかった。

定常状態での熱画像により、誌面横方向に流した電流によって試料の上半分が吸熱、下半分が発熱していることから、横型熱電変換として機能している直接的な証拠が得られた。

次に、試料に電磁石で外部磁場をかけながら、同様のロックインサーモグラフィ測定を実施し、Bi88Sb12/Bi0.2Sb1.8Te3接合からなる人工傾斜型多層積層体における熱電変換過程の磁場依存性を検証した。その結果、これらの磁気熱電効果で、人工傾斜型多層積層体における横型熱電変換特性を向上できることが明らかになった。

これは、単一の複合材料で、非対角ペルチェ効果、磁気ペルチェ効果、正常エッチングスハウゼン効果という3種の現象が相加的に同時に発現していることになる。3種の現象によるハイブリッド熱電変換により、外部磁場の方向を適切に選ぶことで、Bi88Sb12/Bi0.2Sb1.8Te3人工傾斜型多層積層体に定常的に電流を流した際に得られる冷却能力が、大幅に向上することを実証した。

今回の研究で実証したハイブリッド熱電変換の応用展開には、磁気熱電効果を電磁石で外部磁場をかけることなく発現させる必要があることから、人工傾斜型多層積層体中のBi0.2Sb1.8Te3合金をネオジム磁石に置き換えた複合材料を合成した。ネオジム磁石層を磁化させると、隣接するBi88Sb12合金は、外部磁場を取り除いても磁場がかかり続ける。合成した人工傾斜型多層積層体は、永久磁石としての性質も有し、その磁力自体も有効活用できる。

今回、磁石材料に高性能の熱電冷却、発電機能を付与するための材料設計指針を確立したため、今後、熱と電気を高効率に変換できる熱電永久磁石を創製する物質/材料科学と、それを応用展開するためのデバイス技術開発が加速することが期待される。

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