フェムト秒レーザー光で、ガラスを「透明な半導体」に変える研究

2024 EPFL / Lisa Ackermann - CC-BY-SA 4.0

スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の研究チームが東京工業大学の科学者と共同で、フェムト秒レーザー光を用いてテルライト(TeO2)ガラス表面に光導電性回路を直接書き込むことに成功した。フェムト秒レーザー照射されたラインに正確に、光導電性を有したTeナノ結晶ラインが形成されることを見出したもので、UV光線と可視光線の照射によって電流を発生する光起電力応答性を何カ月も維持することを明らかにした。考案したプロセスにおいては他の材料を追加することなく、テルライトガラスとフェムト秒レーザー技術だけでガラス表面に光導電性半導体を造り込むことができる。将来的に、ガラスやガラス窓を透明な光エネルギー発生や光センサデバイスに変換できると期待している。研究結果が、2024年1月5日に『Physical Review Applied』誌に公開されている。

EPFLの研究チームは、光でさえも約0.3 μm程度しか進まないフェムト(1×10-15)秒という極めて短いパルス幅をもつ、高速パルス高エネルギーのフェムト秒レーザー技術の研究を実施してきた。フェムト秒レーザーは、共振器内で位相関係が固定されている発振モード間で、各波長の山が揃った部分のみでパルスを発生させる“モード同期法”などで発振させることができ、熱影響による対象物の損傷を防いだり、焦点近傍のみで微細構造を形成できるなど、超精密加工などへの技術応用開発が活発に進められている。研究チームはその過程で、線形屈折率や誘電率が大きく、赤外透過性に優れ、光機能性が期待されている酸化物ガラスの1つであるテルライト(TeO2)ガラスに、フェムト秒レーザーを照射した場合のガラス構成原子の反応について注目した。2023年5月には、東京工業大学の科学者が作成したテルライトガラスに対して、フェムト秒レーザー光の単一パルスを照射した結果、溶融現象を経ることなく固相変態により、ガラス中のTe原子が半導体Te結晶に変化することを確認している。

研究チームは更に、テルライトガラスを基板として光導電性回路を書き込むことにチャレンジした。直径1cmほどのテルライトガラスの表面に単純なラインパターンを照射したところ、Te/TeO2ナノコンポジット界面のラインが形成され、近紫外線から可視光線までの照射によって電流を発生することを見出した。波長400nm照射線量0.07mW/cm2で照射効果を測定したところ、高い光起電力応答性16.55A/Wおよび光検出度5.25×1011Jonesが得られ、それが数カ月維持されることが確認された。「この発見によって、テルライトガラス表面に耐久性のある光導電性回路パターンを書き込むことができ、光照射によって電気を信頼性高く発生できる」と、研究チームは説明する。「興味深いことに、プロセスにおいて追加の材料を必要としない。活性な光導電性材料を作成するのに必要なのは、テルライトガラスとフェムト秒レーザーだけだ」とも語っている。

関連情報

Turning glass into a ‘transparent’ light-energy harvester – EPFL
Phys. Rev. Applied 21, 014008 (2024) – Femtosecond-laser direct-write photoconductive patterns on tellurite glass

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