GPSより堅牢で高精度、精度10cmのナビゲーションシステム――人工衛星の代わりにモバイル通信ネットワークを利用

蘭デルフト工科大学、蘭アムステルダム自由大学、オランダの国家計量機関であるVSLの研究者らは、アメリカが開発した全球測位システム(GPS)に代わる、GPSよりも堅牢で高精度な測位システムを開発した。この新しいモバイルネットワークインフラストラクチャーを実証した実用レベルのプロトタイプは、10cmの精度を達成した。この研究の詳細は、2022年11月16日付で『Nature』に掲載された。

現代において不可欠なインフラの多くは、アメリカのGPSや欧州連合(EU)のGalileoなどの全球測位衛星システム(GNSS)に依存している。しかし、人工衛星に依存するこれらのシステムには限界があり、脆弱性もある。衛星からの信号は地球上で受信する時には弱く、信号が建物に反射したり遮られたりすると正確な測位ができなくなる。そのため、都市部ではGPSの信頼性が低くなり、例えば自動車の自動運転などで問題となる。

また、一般市民や政府機関は、位置情報アプリケーションやナビゲーション機器で実際にGPSに依存しているが、これまではバックアップシステムがなかった。

そこで、人工衛星の代わりにモバイル通信ネットワークを利用し、GPSよりも堅牢で正確な代替測位システムの開発を目的とする「SuperGPS」というプロジェクトが立ち上げられた。このプロジェクトの成果が、既存の携帯電話やWi-Fiのネットワークと同じように接続でき、GPSのように正確な位置と時間分布を提供できるシステムだ。

今回開発されたシステムの革新的な点の1つは、モバイル通信ネットワークを非常に正確な原子時計に接続することだ。既存の光ファイバーネットワーク経由で原子時計と接続し、その結果、測位メッセージを正確な時刻で送出できるようになる。GPS衛星も、搭載している原子時計を使って正確な時刻でメッセージを送信している。

今回実証を行った光-無線ハイブリッドシステムで、原理的にはVSLの原子時計が生成する国家標準時に誰でも無線でアクセスできる。基本的には、10億分の1秒という精度の非常に正確な電波時計を形成するとしている。

既に研究されていた、原子時計が生成する国家標準時を他のユーザーに通信ネットワークを通じて割り当てる技術を活用して、通信ネットワークをいわば全国的な分散型原子時計に変えることができ、モバイルネットワークを通じて非常に正確な測位をするなど、多くの新しい応用が可能になる。

さらに、このシステムでは、一般的に使われているよりもはるかに大きな広帯域幅の信号を採用している。建物が信号を反射すると、ナビゲーション機器が混乱することがあるが、このシステムは帯域幅が広いため、混乱を招くような信号の反射を選別でき、より高い測位精度の実現が可能になる。

ただし、無線スペクトル内の帯域幅は限られているため、高価になる。そこで、大きな仮想帯域に、多数の小さな帯域幅の信号を展開して使用することで、この問題を回避した。こうすることで、仮想帯域のごく一部しか実際には使用されず、携帯電話の信号に非常に似た信号を得られるという利点がある。

研究チームによると、この新技術は、自動運転車両、量子通信、次世代移動通信システムなど、位置情報に基づくさまざまな用途を実践する上で重要だという。

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