強力なチタン合金を創出する手法を考案――強度と延性を両立

マサチューセッツ工科大学(MIT)は2024年7月2日、同大学の研究チームが特殊金属メーカーATI Specialty Materialsと共同で、結晶塑性に大きな制約のある稠密六方晶構造を持つチタン合金において、強度と延性の両方を同時に向上させる設計手法を考案したと発表した。化学組成の最適化により稠密六方晶の軸比を調整し、すべり変形の制約を緩和するとともに、製造時にクロス圧延を採用することで結晶組織の異方性を抑制し、強度と延性の優れた組み合わせを得ることに成功した。

チタン合金は、航空宇宙分野や発電タービン、生体医療器具など広汎な用途で使用されている。しかし、多くの金属と同様に、2つの主要特性である強度と延性の間には、強い材料は変形性能に乏しく、変形性の高い材料は強度に乏しいというトレードオフの関係がある。特に、Ti-6Al-4V合金を代表とするチタン合金の結晶構造は一般に複雑であり、α相とβ相として知られる2つの異なる相の混合から構成されている。さらにα相の結晶構造は稠密六方晶であり、結晶塑性を受け持つ転位のすべり方向が六方晶の底面内に限られるため、大きな延性を発揮しにくい特徴がある。これを克服する方法として、α相とβ相の微細混合組織を得る加工熱処理技術が提案されており、鉄やアルミニウムと同様の立方晶構造を有するβ相のみから構成されるβ型チタン合金が開発されている。

研究チームは、チタン合金の結晶塑性の基本科学に立ち戻り、結晶構造スケールの視点および多結晶組織スケールの視点から、強度と延性の間のトレードオフの関係を克服することにチャレンジした。結晶構造スケールの視点では、合金元素としてスズ(Sn)を選択するとともに組成を最適化することで、稠密六方晶の底面結晶軸単位aと柱面結晶軸単位cの間の軸比c/aを制御し、転位すべりをa方向だけでなくc方向にも拡大して結晶塑性の制約を打破できることを確認した。

また、多結晶組織スケールの視点では、圧延プロセスにおいて圧延方向と直角に交差する方向の圧延も加えるクロス圧延を導入することで、結晶組織の異方性を抑制できることを見いだした。走査電子顕微鏡の中でさまざまな合金を変形させて、各々のミクロ組織が外部機械的応力に対してどのように応答するか詳細に調べた。その結果、化学成分と組成、プロセス手法に関するパラメータの組み合わせにより、α相とβ相が変形を均等に分担することで、各々の相が不均質に変形する場合よりも、割れ発生の危険性を緩和できることを見いだした。「両方の相は調和して均質に変形する。負荷応力に対する協力的な変形が優れた材料を創出する」と、研究チームはその理由を説明した。

「結晶構造スケールの視点および多結晶組織スケールの視点に基づいて、強度と延性の優れた組み合わせを得る設計指針が得られた。将来的に多様な結晶組織を創成し、さまざまなニーズに応える特性バランスを有した材料を設計できる可能性がある」と、研究チームは期待している。

関連情報

MIT researchers identify routes to stronger titanium alloys | MIT News | Massachusetts Institute of Technology

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