核融合炉の中核となる浮遊電磁石「Junior」を開発 ニュージーランドのスタートアップ

ニュージーランドの核融合スタートアップであるOpenStar Technologiesは、浮遊電磁石を搭載した電源と高温超伝導体(HTS)を独自に統合した、浮遊双極子核融合炉(LDR : Levitated Dipole Reactor)の建設を目指している。同社は2024年8月30日、その中核システムとなる浮遊電磁石「Junior(ジュニア)」を公表した。

伝統的な核融合装置では、プラズマは固定配置された超伝導体の中に閉じ込められる。一方、浮遊双極子の場合は、超伝導体がドーナツ型の磁石の中にあるため、磁力線が固定装置の外側に出ており、プラズマは磁石の周りに2つの極を持つ「ダイポール状」に閉じ込められる。これと同じ状態は、自然界では地球の磁気圏で観察することができるという。

重さ0.5トンのJuniorは、ReBCO超伝導体を使用した14個の非絶縁コイルで構成される。各コイルは100ターンまで巻かれ、HTSテープとはんだペーストが交互に重ねられた構成で、オーブンで加熱し、はんだを均等に分散させる。

液体窒素レベル(-196℃)で作動するHTSは、より多くの電流、より高い臨界電流密度を実現し、プラズマ閉じ込めの性能を向上させる。

品質保証のため、コイルは液体窒素中でテストされ、最終的な検証にはFEM(有限要素モデリング)を使用する。コイルは-243~-223℃の温度範囲において1440Aで動作し、ピーク値は5.6T(テスラ:磁束密度)に達し、0.5MJのエネルギーを蓄えることができると、同社は説明している。

Juniorは外部電源から完全に切り離された状態で浮遊する。これは、閉じ込められたプラズマが摂氏1億度を超えることから、物理的な物質が耐えられない温度になるためだ。核融合が起こるためには粒子が高速かつ極端な温度で移動する必要があり、磁力線に機械的な要素があるとプラズマは臨界温度に達しないのだという。

また、Juniorには大きな課題が2つある。1つは、搭載された電源、電子機器、通信機器を、磁場に貫通されない空洞に統合すること。もう1つは、すべてのサブシステム機は、極低温コイルや灼熱プラズマとはかけ離れた室温動作状態を維持しなければならないことだ。

同社は、コイルとサブシステムの最適な配置を特定するため、差分進化として知られる遺伝的アルゴリズムの一種を導入した。現在、オンボード電源は、マグネット・キャビティのほぼゼロ磁場領域に位置している。

74トンの圧縮力に耐えるよう設計されたJuniorは、自己崩壊を引き起こすような熱ストレスに耐え、マグネットの極低温動作温度を達成するため、ヘリウムガスループによる伝導冷却を採用し、断続的な電源充電時の極低温維持を実現している。

関連情報

Junior – OpenStar’s Fusion Magnet

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