新たな「ものづくり」を支える標準化に向けた取り組みを披露――JAMAデジタルエンジニアリングセミナー

日本自動車工業会(JAMA)は、第45回東京モーターショーのシンポジウムとして「JAMAデジタルエンジニアリングセミナー2017」を2017年11月2日に開催した。

これはJAMA電子情報委員会デジタルエンジニアリング部会としての活動報告で、自動車メーカー各社だけでは解決できない課題に業界として取り組み、さらに業界を超えた標準化による基盤強化と将来動向を踏まえた先端技術の実用検証により、質の高い新たな日本の「ものづくり」をリードすることを基本理念とするものだ。

当日は、伊井野政宏部会長による概要紹介に続き、以下の5テーマについて各委員より発表が行われた。

・3Dデジタル情報の活用による車両開発から生産までの効率化
・デジタルエンジニアリング・プロセスの適用範囲拡大
・最先端デジタル技術の実用検証
・標準維持、活用促進
・デジタル情報の国際標準化動向

今回はその中から、自動車業界のみならず広く製造業の関心事である3Dデジタルデータの標準規格化とデジタルデータの共有化に関する課題についての発表を取り上げたい。

まず、「3Dデジタル情報の活用による車両開発から生産までの効率化」から「3Dデジタル製品技術情報の一般工業規格開発」と題して、タスクリーダーの島田宏美氏から発表があった。

これは設計図面を3D図面化するにあたり、必要な技術標準を規定してJIS化するための活動だ。3D図面では従来の第三角法による2D図と比べ、図面情報を後工程に視覚的にわかりやすくかつ正確に伝えられるというメリットがある。自動車業界では2D図から3D+2D図へと図面様式が変化しつつあり、将来的には3D単独図に移行していくと考えられている。

そこでJAMAでは、既存のJIS/ISOおよびJAMAが2007年に発行したガイドラインを基にJAMA各社で用いられる3D CADでの指示方法と検証を踏まえ、3D単独図として製図可能な方法を標準化している。3D図面化(3Dモデル+2D図面を含む)の普及率は、自動車業界としては車両系・パワートレイン系合わせて50%を超える程度で、目標はこれを80%にするところにあるという。

3D図面は、JIS B0060-2では三次元情報を付加した3DAモデル(3D annotated model)と定義されており、3DAモデルとして必要になる指示や属性を定義している。加えて、3DAモデルを中心として、試験データ、解析データ、製造データから、品質データ、サービスデータなど、モデルライフにわたる製造業の多くのデータをDTPD(digital technical product documentation)として定義・管理するJIS DTPDシリーズの検討も進めているという。

次に同じく「3Dデジタル情報の活用による車両開発から生産までの効率化」から「同一性検証ツールの実用性確認」と題して、タスクリーダーの武田健氏が発表を行った。

この活動の背景にあるのは、設計→実験→生産→販売/サービスといった社内各工程間でのデータ共有や、自動車メーカーとサプライヤ間あるいは自動車メーカー同士という企業間でのデータ共有/データ変換の必要性だ。こうしたデータ交換のさらなる効率化・自動化実現のため、変換後のデータ保証=同一性検証が重要となっている。そのため、JAMAでは2014年にJAPIA(日本自動車部品工業会)と共同で「CAxデータ変換における同一性ガイドライン」を作成・発行している。

ここでいう「CAxデータの同一性」には大きく分けて3つの要素があり、それぞれ「表示上の同一性」「形状の同一性」「意味の同一性」に分類されている。こうした同一性が担保できないと、例えば長期保管したデータを再利用しようとフォーマット変換した際に再現できなくなったり、設計者が部品メーカーに変換したデータを渡す際に誤変換による手戻りやデータ修正といった追加作業が発生することになる。

ガイドラインを策定することはできたが、実際にツールの機能実装や実務展開には至っておらず、実務展開につなげるためにはさらなる深堀が必要だとしている。今後具体的には、各社の共通課題と位置づけられるユースケースを選定し、検証のクライテリアを決定、検証ツールとして必要な機能として実装されるよう、データ変換ツールやアプリケーションのサプライヤに働きかけていくとしている。

ここまで、最初のテーマでは図面の3D化やデジタルデータ化に関する標準化の動きを取り扱った。次のテーマは「デジタルエンジニアリング・プロセスの適用範囲拡大」で、まず「電子制御情報の交換」について、タスクリーダーの菊地洋輔氏が発表した。

近年、車載電子制御システムの組み込みソフトウェア開発においても、モデルベース開発(MBD)が導入されているが、いわゆるVサイクルの初期段階でのシミュレーションによる裏付けのある車両システム/コンポーネントの仕様書作成が重要で、そのためには自動車メーカーと部品メーカー間のモデル流通・共有が重要になっているということも活動の背景にある。

そのために、ソフトウェアをモデル段階で評価するための「MILS(Model in the Loop Simulation)」環境をどう構築するか、そのためのモデル流通/MILS環境のあり方を定義する。

活動の目標とするのは自動車メーカーと部品メーカー間の情報流通のありたい姿の定義と、その情報流通を効率化するITツールの実装検証だ。活動計画は2017~19年度の3カ年計画で実施、2017年度は国内・欧州のモデル流通の現状と将来に関する調査を行い、2018年度に日本のメーカーの特徴を考慮したモデル流通とMILS環境のあり方を定義し、実現のためのITツールの要件を定義する。そして2019年度にIT方策としての実証を検証する予定だとしている。

最後に紹介するのは同じく「デジタルエンジニアリング・プロセスの適用範囲拡大」で、まず「部品表情報の交換」について、タスクリーダーの千古崇夫氏が発表した。

部品表(BOM:Bill Of Material)は、ある製品を構成する部品の一覧表のことだ。自動車の場合一般的に2~3万点の部品から構成されるが、その内訳は販売される地域やグレードなどの様々な情報を含んでいる。

ただ、この部品表情報は自動車メーカー各社で管理が異なっており、例えば商品仕様をとってもファミリーと車種の間の階層構造が違っていたり、車種を表すコード体系が異なっている。また部品仕様についても構成要素の単位が違っていたり、部品番号の付け方のルールが違うという課題がある。

近年自動車メーカー各社で協業が進んでいるが、各社の「社内言語」で記述されている部品表を共有するためには、協業相手毎に独自の対比表を決め、情報交換する必要がある。そこで、自動車メーカー統一のルールを決め、「共通言語」により部品表を記述できるようにすることがこの活動の狙いだ。

タスク活動は2017~19年度の3カ年計画で実施、2017年度はデータ交換の現状を調査として国内・欧州の部品表情報のデータ交換の現状を調査し、検討するユースケースを決める。2018年度は共通フォーマットの案を作成し、2019年度に運用ガイドを作成・発行する予定だとしている。

※この記事は、JAMAに取材許可を事前に取った上で取材した内容を元に編集したものです。

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