- 2024-1-19
- 化学・素材系, 技術ニュース
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理化学研究所(理研)環境資源科学研究センターの国際共同研究グループは2024年1月17日、水を電気分解(電解)する水電解触媒として有望な酸化マンガン(MnO2)の安定性を高める仕組みを発表した。クリーンな水素製造技術である固体高分子(PEM)型水電解への応用が期待される。
PEM型水電解は、高いエネルギー効率と水素製造速度から、電圧変動に対しても迅速に応答できるため、次世代の水素製造技術として期待されている。しかし、水の電気分解と同時に触媒自体が分解されることが課題の一つになっている。現在運用されているPEM型水電解では、イリジウムなどの貴金属触媒が用いられているが、貴金属触媒は希少金属のため、非貴金属材料の開発が強く求められている。
研究グループは、酸性環境で酸化マンガン触媒が安定して水を電気分解できることを発見したが、高い電流密度のPEM環境では溶け出すことを抑えられなかったため、PEM環境下でも分解しない酸化マンガン触媒の開発が強く求められていた。
今回、強い酸耐性を持つ酸化マンガン触媒を開発するために、2種類の酸素原子配置が含まれているガンマ型酸化マンガンに注目。2種類の酸素原子配置のうちの一つは隣接する三つのマンガン原子(Mn)を含む平面に酸素原子が含まれるOpla、もう一つは隣接する三つのマンガン原子(Mn)を含む平面から酸素原子が飛び出たOpyrとなる。
まず、94℃の高温で、Mnイオンを含む水溶液に電圧を印加してガンマ型酸化マンガンを電析し、電析したガンマ型酸化マンガンをさまざまな温度で焼成したところ、焼成温度を変えることで、OplaとOpyrの割合を制御できた。
Oplaの割合が異なる4種類のガンマ型酸化マンガン(60%、67%、85%、94%)の活性と安定性を測定したところ、Oplaの割合を高くすることで、ガンマ型酸化マンガン触媒の溶解を抑制し、安定性が向上することがわかった。電位を印加した際に得られる酸素発生に由来する電流は、四つの材料でほとんど差が見られなかったため、どの材料も同程度の速度で水を電気分解できるが、Oplaが多い材料ほど溶出が抑制されることがわかった。
引き続き、電極触媒として、異なるOplaの割合を持つガンマ型酸化マンガンを用いて、PEM電解槽の強酸性環境と近い硫酸水溶液の酸性環境(1 M H2SO4)中で触媒安定性を評価した。なお、触媒として用いたガンマ型酸化マンガンは、PEM型水電解で使われる多孔質輸送層(PTL)基板に直接電析させている。
評価の結果、60%から94%にOplaの割合を増やすことで、触媒の寿命が40倍長くなった。走査電子顕微鏡で触媒の断面を観察したところ、電析方法の最適化で、PTL基板の内部までガンマ型酸化マンガンを電析できることがわかった。その結果、より多くの量の触媒を塗布できるようになり、200mA/cm2の電流密度で3200時間以上も水の電気分解を維持できることを実証した。
以上の結果は、基礎研究で使われる三電極系における知見のため、触媒特性をPEM環境でも評価し、より実用的な環境でもOplaの導入が活性と安定性の両立につながるかを調べた。その結果、合成した酸化マンガンを用いたPEM型水電解から2Vで2A/cm2の電解電流密度が得られた。
四つの材料の耐久試験では、Oplaが60%しか含まれない材料は100時間未満で分解されたが、Oplaが最も多い94%の材料では1000時間以上、電解を継続した。この値は、これまでに報告された非貴金属触媒を用いたPEM型電解と比較して、水素製造量が一桁増加することに対応する。
一方で、どの材料も1.8Vの印加電圧で450mA/cm2の電流密度が得られたため、活性はほぼ同等だった。これらの結果から、Oplaの導入により、活性を維持した状態で、安定性を向上できることがわかった。
量子化学計算による結晶構造と酸化マンガンの活性、安定性の関係の評価では、活性はOpyrやOplaの割合でほとんど変化しないが、Oplaが多いほど、触媒の溶出が抑制されることが明らかになっている。