- 2024-2-2
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名古屋大学大学院理学研究科は2023年1月29日、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)、九州大学と共同で、次世代有機EL発光材料の発光効率を増幅する新しい量子機構の理論的発見に成功したことを発表した。従来理論での見積もりと比べ約1000倍以上のスピン反転速度をもたらす加速効果を生み出すことをシミュレーションから発見している。
有機EL素子内では、電気的に励起された発光分子は25%の励起一重項状態と75%の励起三重項状態を形成する。非発光性の励起三重項の蓄積は、発光量子効率低下の原因となることから、これを解決するため、スピン反転によって励起一重項状態へと変換して発光させる熱活性化遅延蛍光(TADF)機構が注目を浴びている。
TADF機構は、100%に迫る高い内部量子効率を実現できるが、スピン反転の効率が低いという課題がある。そこで、これを克服する新たな分子設計理論の確立が待たれている。
研究チームは、分子振動に起因するスピン軌道相互作用の増幅効果(HT-SVC効果)、複数の三重項状態が複合的にスピン反転を促進する効果(NA-SVC効果)に着目。MR-TADFにおけるRISCの速度定数の新しい予測式を導出し、RISC速度定数をシミュレーションする新しい手法を開発した。この計算法「2nd+HT理論」は、量子化学計算によって算出される分子情報(物理量)を取り入れて評価できる
まず、この計算法の性能を検証するため、標準材料であるγ-DABNA、BOBO-Z、BOBS-Z、BSBS-Zを対象分子とし、既知の4つのMR-TADF分子に対してRISC速度定数を計算した。その結果、今回の研究で開発された2nd+HT法は、大幅に他の方法の予測値を改善し、最も良い精度で実験値を再現した。
次に、励起一重項-励起三重項エネルギー差(以降、ΔEST)に着目し、予測精度の向上を目指した。研究では、2nd+HT理論の速度定数式に基づき、温度依存性をシミュレーションしてΔESTを推定するアルゴリズムを発案し、理論拡張により、前述の速度定数計算法にこの手法(ARPSfit法)を組み入れた。
先に示した4つのMR-TADF分子への応用では、同手法はRISC速度定数の予測精度を更に改善した。これは、効果的にΔESTの見積もりの信頼性や解釈性が高められたことを意味する。従来法と2nd+HT理論の結果を比べたところ、分子振動が誘発するスピン反転効果と、高次の励起三重項状態を用いるスピン反転効果とが協調し合うことで、スピン反転が約1000倍以上加速されることがわかった。
また、理論公式に基づき、RISC速度定数の成分分解にも成功した。4つのMR-TADF分子の速度定数の成分構成は2種類あり、γ-DABNAやBOBOは複数の励起三重項状態(T1~T4)がRISC過程に寄与し、BOBSやBSBSは最低励起三重項状態T1から励起一重項状態S1へ直接スピン変換する機構が主要な寄与だとわかった。
さらに、材料開発で解析手法として頻繁に用いられているMarcus理論の速度定数式の予測性能を評価するため、121個の既報のMR-TADF分子を用いた検証を実施。その結果、121分子のデータから、Marcus理論が実験値とよい一致を示場合の条件を突き止め、121個の計算データから速度定数理論の詳細な解析を実現した。
今回の研究で開発した新しいシミュレーション法で、逆項間交差(RISC)の速度定数を精度良く見積もることができる。将来このシミュレーション法が基盤技術として分子探索に活用され、新規かつ高性能なMR-TADF分子の発見につながることが期待される。今後の研究により、この手法が明らかにした新原理に基づく高性能な有機EL発光材料の創出が期待される。
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