富岳で1万超の原子を含むナノ物質の超高速光応答シミュレーションに成功 筑波大学

筑波大学計算科学研究センターは2022年1月6日、神戸大学とともに、スーパーコンピュータ「富岳」を用い、1万を超える原子を含むナノ物質の光応答の第一原理計算に世界で初めて成功したと発表した。約6ナノメートルの厚さを持つ酸化ケイ素ガラスの薄膜と高強度なパルス光の非線形光応答を調べることに成功した。

研究では、富岳で、非常に短い時間で起こる電子の運動や物質中の光の伝搬を第一原理計算法で計算するオープンソースソフトウェアSALMONを用いて、世界で初めて1万を超える原子で構成されるナノ物質の光応答の計算を行った。

光と物質の相互作用には、さまざまな物理法則が関わり、それぞれ異なる方程式で、光の伝搬、電子の運動、イオンの運動が記述される。SALMONでは、3次元空間格子を用いて、電子軌道や光電磁場のポテンシャルを表し、これらの方式を同時に解き進めることができる。

またSALMONでは、真空中に孤立した原子や分子、周期的な結晶、ナノメートルスケールの構造体など、さまざまな形状の物質と光の相互作用を調べられる。物質の表面やナノメートルサイズの構造体、不純物や欠陥のある結晶を調べるには、少なくとも数十から数百の原子を含む物質に対する計算が必要になり、スーパーコンピュータを用いた計算が不可欠である。

CPUを15万以上搭載した富岳の性能を活かすためには、高度なチューニングを必要とし、研究では筑波大学計算科学研究センターに所属する理論物理学の研究者と計算機科学の研究者の協力のもと、極めて高い計算性能をSALMONで達成した。

今回の計算では、富岳の全システムのおよそ1/6を使用し、10万以上のMPIプロセスを用いて、最大で1万3632原子からなる物質の光応答計算を実施。これまでの類似した計算では約6000原子からなる物質が最大だったが、世界で初めて1万を超える原子を含む物質に対する計算ができた。

研究では、アモルファス状のガラス(SiO2)の薄膜にパルス光が垂直に入射する場合の計算を扱った。厚さ6ナノメートルのナノ薄膜は、1万以上の原子を含む。極めて高い強度のパルス光を入射させた計算から、ガラスが透明ではなくなり、光の吸収が起こることが見い出された。これは、高強度レーザーを用いたガラス加工の初期過程に相当するという。

また、反射波や透過波には、入射光の振動数の数倍から数十倍の振動数を持つ高次高調波の発生が確認できた。計算科学により、パルス光の照射で起こる超高速、非線形現象を実験の状況そのままにシミュレーションできることが確かめられたことになる。

SALMONは、光のパルス波形や振動数、物質の種類や形状を自由に設定して計算することで、最先端の光科学実験を丸ごと計算機の中でシミュレーションする数値実験室の役割を果たす。このようなシミュレーションは、実験が困難な状況下や、直接実験で測定することが難しいミクロな空間での電子やイオンの運動がもたらす現象の解明に役立つ。

今後、多様な光科学現象に対し、富岳をはじめとするスーパーコンピュータを用いた計算を実施し、原子レベルから現象を解明することの有効性を示し、世界標準のソフトウェアとしてSALMONが広く利用されることを目指す。

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