米スタンフォード大が化学工業用高効率反応炉を開発

Dolly Mantle

米スタンフォード大学工学部の研究チームが、化石燃料を燃焼させる代わりに電気を使い、熱化学反応に十分な熱を発生させられる新しいタイプの反応炉を設計した。炭化ケイ素から作られた三次元格子を反応炉の中心に設置し、メガ領域の高周波を用いた誘導加熱により、熱化学反応に必要な熱を極めて高効率で発生させることに成功したものだ。回収した二酸化炭素(CO2)を持続可能な燃料に変換できる逆水性ガスシフトにおいて、85%以上の高効率を示すことを実験的に実証した。研究成果が、2024年8月19日に『Joule』誌に公開されている。

アメリカにおいては、CO2排出量の約3分の1を製造業が占めており、乗用車やトラック、航空機の合計排出量よりも多い。そのため製造業における脱炭素化は、将来の気候変動を緩和する上で重要な課題になっている。その中で化学工業における多くの熱化学反応炉は、化石燃料を燃焼して流体を加熱し、流体をパイプによって反応炉内部に送り込むことによって熱化学反応に必要な高温を実現している。大きな構造が必要になるとともに、プロセス中に多くの熱を散逸することから、エネルギー効率が極めて低いのが実情だ。

スタンフォード大学の研究チームは、化石燃料を燃焼させる代わりに高周波電流による誘導加熱により、熱化学反応に必要な熱を発生させる新しい熱化学反応炉の開発に挑戦した。誘導加熱は、例えば棒状の鋼材を加熱する場合、鋼材の周りに巻いたコイルに交流を流すことにより鋼材中に高周波磁場を発生させ、さらに高周波磁場が鋼材中に電流を発生させて、抵抗加熱により鋼材を加熱するものだ。一般的な技術であり、家庭用電磁調理器などにも活用されている。しかし、誘導加熱を熱化学反応炉に適用する場合、大きな空間領域において高温の熱を均質に生成するとともに、エネルギー効率を高める必要がある。

研究チームは、反応炉の中心に適度な導電性を有する炭化ケイ素から作られた三次元格子を設置し、これを誘導加熱して熱を発生させることを検討した。格子構造における人工的な孔の配置について、導電性を最適化する設計を行うとともに、熱化学反応を誘起する触媒を満たした。さらに研究チームは、メガ領域の高周波を用いることによりエネルギー効率を最大化できることを見いだし、高効率パワーエレクトロニクスを設計した。そして回収したCO2を持続可能でクリーンな燃料に変換できる逆水性ガスシフトについて実証実験した結果、85%以上の高効率を示すことを確認した。

「触媒に隣接する大面積の構造をクリーンな電気によって加熱でき、生成熱は迅速に触媒に達して化学反応を促進する。従来の化石燃料を用いた反応炉における熱伝送用パイプなどの複雑な構造が不要で、生成熱の散逸ロスが極限的に抑えられるため、小型化および低コスト化が可能だ」と、研究チームは説明する。現在、大容量化および応用範囲拡大の研究に着手するとともに、システムレベルでの経済性について解析し、実用化拡大の可能性を追求している。

関連情報

Electric reactor could cut industrial emissions | Stanford Report

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