- 2024-11-7
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- Physical Review C, SHANS, アルゴン, ウラン, オスミウム, ネプツニウム(Np), プルトニウム, 中国科学院(CAS), 中性子, 原子核, 同位体プルトニウム227, 学術, 気体充填型反跳分離装置, 蘭州重イオン研究施設(HIRFL), 近代物理研究所(IMP), 陽子, 魔法数(magic number)
中国科学院(CAS)は2024年10月8日、同大学の近代物理研究所(IMP)の研究チームが、新しいプルトニウムの同位体プルトニウム227(227Pu)を合成することに成功したと発表した。蘭州重イオン研究施設(HIRFL)にある気体充填型反跳分離装置「SHANS」を用いて、オスミウム(192Os)とアルゴン(40Ar)の融合反応(fusion evaporation reaction)により得たものである。プルトニウムは安定した同位体を持たず、これまでに発見されている最も軽い同位体は228Puであった。今後、最外殻の電子軌道が電子で満たされている、閉殻状態の安定した同位体220Puを求めて実験を継続する計画である。
原子核が安定になる陽子と中性子の数には、2、8、20、28、50、82、126という7つの「魔法数(magic number)」が存在することが知られており、最外殻の電子軌道が電子で満たされている閉殻状態に関係している。ウランの場合は、中性子を142個、143個、146個持った234U、235U、238Uが天然に存在するが、閉殻状態に対応する魔法数126には程遠く、ウラン以上に重い超ウラン元素において、閉殻状態の同位体が安定で堅牢なのかどうかは未知の研究対象になっている。「われわれは一連の実験によって、原子番号92のウランと原子番号94のプルトニウムの間にある、原子番号93のネプツニウム(Np)の同位体における閉殻の存在を発見してきた。しかし、実験データがほとんどないために、プルトニウム同位体の閉殻の存在については不明のままだ」と、研究チームを指導するIMPのGAN Zaiguo教授は語る。
研究チームは、未知のプルトニウム同位体について調べるために、HIRFLにある気体充填型反跳分離装置SHANSを用いた実験を行った。192Osと40Arの核融合反応により新しい同位体を得るとともに、既に確立している入射崩壊関係解析法によって227Puと特定することに成功した。227Puは、IMPが発見した39番目の新同位体であり、中国の科学者によって発見された初めてのプルトニウム同位体となった。さらに、観察された9つの崩壊系列から、放出されるα粒子のエネルギーと227Puの半減期を測定した結果、それぞれ約8191KeVおよび0.78sであり、これは既知のプルトニウム同位体の傾向の延長線上にあり、系統的に良く適合していることを確認した。
今後研究チームは別のプルトニウム同位体を調べる計画で、プルトニウムにおける電子殻形成について理解を深めるとしている。「新しく発見された227Puは、未だ魔法数126からは中性子数で7の差異がある。閉殻状態にある220Pu同位体の安定性や堅牢性を調べるためには、221Puから226Puまでの軽いプルトニウム同位体も含めた研究を継続する必要がある」と、論文の筆頭著者であるIMPのYANG Huabin博士は語る。
研究成果は2024年10月3日の『Physical Review C』誌に公開されている。